【古文 謙譲語 まず覚えたい謙譲語】
以下の空欄へ、謙譲語を書きこみなさい。
平常語 | 謙譲語 | かな | 現代訳 |
言ふ | 申す | まをす | 申しあげる |
言ふ | 聞こゆ | きこゆ | 申しあげる |
言ふ | 聞こえさす | きこえさす | 申しあげる |
言ふ | 奏す | そうす | 帝へ申しあげる |
言ふ | 啓す | けいす | 中宮へ申しあげる |
聞く | 承る | うけたまはる | お聞きする |
行く | 参る | まいる | 参上する |
行く | 詣づ | まうづ | 詣でる |
出づ | 罷づ | まかづ | 退出する |
与ふ | 奉る | たてまつる | 差しあげる |
与ふ | 参らす | まいらす | 差しあげる |
受く | 賜る | たまはる | いただく |
す | 仕る | つかまつる | して差しあげる |
【古文 謙譲語 品詞分解】
敬語について、以下の文章を現代語訳し、解説文を埋めなさい。
古文:今の関白殿、三位の中将と、聞こえけるとき
現代:現在の関白殿が、三位の中将と、申しあげた時
解説:古文「聞こえけるとき」を、品詞分解すると、
聞こえ(動詞 聞こゆ 連用形)+ける(助動詞 けり 連体形)+とき(名詞)となります。
動詞「聞こゆ」は謙譲語で、動詞「
言ふ」が平常語で、対応します。
古典日本語「聞こゆ」に似た謙譲語に「
聞こえさす」があります。
古典日本語「聞こゆ」に似た尊敬語に「
聞こしめす」があります。
この古文には、主語が
省略されているので、謙譲語「聞こゆ」により、主語を「関白より目下の者」と推定します。
古文:大臣(おとど)、一首(いっしゅ)、詠むべしと、仰せければ、一首、詠みつかまつりき。
現代:大臣は、一首、詠むべきと、おっしゃったそうなので、一首、詠んで差しあげた。
解説:古文「詠みつかまつりき」を、品詞分解すると、
詠み(動詞 詠む 連用形)+つかまつり(動詞 つかまつる 連用形)+き(助動詞 き 終止形)となります。
動詞「仕る(つかまつる)」は謙譲語で、動詞「
す」が平常語で、対応します。
古典日本語「仕る(つかまつる)」は、現代日本語「
仕える(つかえる)」へ、継承されました。
「仕」の字は、「奉仕」や「給仕」へ、継承されました。
この古文には、
敬語名詞「
大臣」があるので、敬意の対象が明確です。
古文:いとこの御息所(みやすんどころ)へ、男、参りて、女、罷づ。
現代:いとこの御息所へ、男性が、参上して、女性が、退出する。
解説:古文「男、参りて、女、罷づ」を、品詞分解すると、
男(名詞)+参り(動詞 参る 連用形)+て(助詞 て 接続)+女(名詞)+罷づ(動詞 罷づ 終止形)となります。
動詞「参る(まいる)」は謙譲語で、動詞「
行く」が平常語で、対応します。
動詞「罷づ(まかづ)」は謙譲語で、動詞「
出づ」が平常語で、対応します。
この古文には、「御息所(みやすんどころ)」という敬語名詞があり、「御」の字は、
皇族(こうぞく)を暗示します。
古文:舎人(とねり)など、賜る際は、ゆゆし。
現代:舎人(とねり)など、いただく役職は、素晴らしい。
解説:古文「賜る際は」を、品詞分解すると、
賜る(動詞 賜る 連体形)+際(名詞)+は(助詞 は 係助詞)となります。
動詞「賜る(たまわる)」は謙譲語で、動詞「
受く」が平常語で、対応します。
「賜」の字は、「恩賜(おんし)」へ、継承されました。
「舎人(とねり)」とは、宮廷の雑用係のことです。
この古文には、主語が
省略されているので、謙譲語「賜る」により、主語を「帝」か「朝廷」と推定します。
古文:かくなむありつるとそうしければ ---更級日記 竹芝寺---
現代:このようにあったのだと(帝へ)申しあげたので
解説:古文「かくなむありつるとそうしければ」を、品詞分解すると、
かく(名詞)+なむ(係助詞)+あり(動詞 あり 連用形)+つる(助動詞 つ 連体形)+と(助詞 と 引用)+奏し(動詞 奏す 連用形)+けれ(助動詞 けり 已然形)+ば(助詞 ば 接続)となります。
動詞「奏す(そうす)」は謙譲語で、動詞「
帝へ申しあげる」が平常語で、対応します。
古典日本語「奏す」は、現代日本語「
奏上する(そうじょうする)」へ、継承されました。
この古文には、主語が
省略されているので、謙譲語「奏す」により、主語を「
帝より目下の者」と推定します。
古文:左大臣、下格子に人参れと、仰せられけり。 ---古今著聞集---
現代:左大臣が、格子を下す(仕事)に誰か参上しろと、おっしゃったそうだ。
解説:古文「人参れと」を、品詞分解すると、
人(名詞)+参れ(動詞 参る 命令形)+と(助詞 と 引用)となります。
動詞「参る」は謙譲語で、動詞「
行く」が平常語で、対応します。
この古文では、謙譲語「参る」は
左大臣への敬意を表現し、尊敬語「仰す」は
左大臣への敬意を表現しています。台詞(せりふ)の引用がある古文では、敬意の対象に注意しましょう。
古文:左大臣、一首仕れと、仰せられけり。 ---古今著聞集---
現代:左大臣が、(和歌を)一首して差しあげろと、おっしゃったそうだ。
解説:古文「一首仕れと」を、品詞分解すると、
一首(名詞)+仕れ(動詞 仕る 命令形)+と(助詞 と 引用)となります。
動詞「仕る(つかまつる)」は謙譲語で、動詞「
す」が平常語で、対応します。
この古文では、謙譲語「仕る」は
左大臣への敬意を表現し、尊敬語「仰す」は
左大臣への敬意を表現しています。台詞(せりふ)の引用がある古文では、敬意の対象に注意しましょう。
【古文 謙譲語 問題記述】
問題:平安時代に、敬語はどのような対象に用いられましたか。
記述:平安時代に、敬語は皇族・後宮・貴族・神職・空間に、用いられました。
皇族の最高権力者は、奈良時代以前は大王(おおきみ)と呼ばれ、平安時代以降は
帝(みかど)と呼ばれ、現代日本語では日本国憲法により天皇(てんのう)と呼ばれます。皇族のうち、男性の皇位継承者を
親王(しんおう)と呼びますが、源氏物語では宮(みや)とも呼ばれています。皇族は、もっとも位階が高く、後宮や貴族は、皇族へ敬語を用います。
後宮は、天皇から寵愛される女性が住むところです。後宮には、女性独自の位階があり、摂関政治で権力の頂点に昇りつめた藤原氏は、娘たちを
中宮(ちゅうぐう)・
皇后(こうごう)として入内(にゅうだい)させました。源氏物語の主人公である光源氏(ひかるげんじ)の母親は、後宮では
更衣(こうい)という低い身分にも関わらず、天皇から寵愛されたので、他の女性から嫉妬される描写があります。江戸時代になると、武家将軍の後宮として、奥方(おくのかた)という敬称が生まれ、現代日本語の奥さん(おくさん)という敬称へ、変化していきます。貴族は、後宮へ敬語を用います。
貴族は、血統と役職により、位階が定まりました。血統とは、氏(うじ)のことで、藤原氏や蘇我氏が有名です。645年の大化改新(たいかのかいしん)で、天智天皇とともに戦った中臣鎌足は、
朝臣(あそん)という位階を授けられ、中臣鎌足の子孫も用いています。役職とは、貴族の職務内容のことで、701年の大宝律令(たいほうりつりょう)により大枠が定められ、少しづつ整備されていきました。従三位以上の貴族は
公卿(くぎょう)や
上達部(かんだちめ)と呼ばれ、現代日本語では「幹部」や「重役」に相当します。
貴族は、血統が良ければ、役職も良くなる傾向がありましたが、時代が進むにつれて、血統が良くとも、力量が足らなければ、役職を与えられない事例も増えていき、戦国時代になると
下剋上(げこくじょう)により、血統と役職は必ずしも一致しなくなりました。
神職(しんしょく)は、神道や仏教に関係があり、
禰宜(ねぎ)や
斎宮(さいぐう)などの人間だけではなく、お地蔵様や観音様などの神様にも、敬語を用います。現代日本語の
初詣(はつもうで)は、「年の初めに神に詣でる」という意味で、「詣でる」という敬語が用いられています。今昔物語やお伽草紙などの、一般庶民のための民話では、地域を守る聖なる動物にも、敬語を用いています。
空間は、特別な場所へ、敬語を用います。天皇のお住いである
内裏(うち)は、江戸時代には禁中(きんちゅう)、現代では御所(ごしょ)と呼ばれています。皇族のご旅行先である
御幸(みゆき)は、現代日本語でそのまま地名となっています。伊勢神宮(いせじんぐう)は、江戸時代の小説では「お伊勢様」と呼ばれています。
敬語の注目すべき機能は、身分の上下関係を定めるだけではなく、むしろ、相手の人格を尊重したり、物事を大切にする文脈でも、用いられることです。現代日本語においても、人間社会の権力関係だけでなく、大切にしたい気持ちとしても、敬語は用いられています。その意味で、敬語は、日本人の感性に影響を与えています。
質問と回答