敬語法 尊敬語(そんけいご)

敬語法 尊敬語(そんけいご)

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敬語法 尊敬語(そんけいご)

古典文法の敬語法で、尊敬語(そんけいご)の解説です。尊敬語の種類・意味を、学習します。

尊敬語とは、動詞で、動詞の能動(のうどう)へ、敬意が表現され、大切な存在であると暗示します。尊敬語は、「動作をする人が大事」と覚えましょう。

例えば、尊敬語の動詞「仰す(おほす)」は、平常語では動詞「言ふ」であり、言葉を能動に話す人間へ、敬意を表現します。言葉を受動に話される人間へは、敬意を表現しません。

どのような存在に敬意を払うべきなのかは、敬語名詞に注目するとわかりやすいです。

例えば、敬語名詞「中宮(ちゅうぐう)」は、帝の妃を意味し、文章中で敬意を払うべき存在として描かれます。


【古文 尊敬語 入門】


能動(のうどう)受動(じゅどう)動詞敬語法
中宮が白猫へ仰す尊敬語
白猫が中宮へ 言ふ平常語


中宮が、能動的に、白猫へ、話すときには、平常語「言ふ」が尊敬語「仰す」へ変化します。
白猫が、能動的に、中宮へ、話すときには、平常語「言ふ」が尊敬語「仰す」へ変化しません。

古文では、同じ文章内で、敬語は統一して用いられます。文章の途中で、いきなり尊敬語を用いたり、いきなり用いなくなったりはしません。



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【科目】


古文(古典)


【領域】


古文文法(こぶんぶんぽう)


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尊敬語 まず覚えたい尊敬語



【尊敬語 まず覚えたい尊敬語 まとめ】


平常語尊敬語かな現代訳
言ふ宣ふのたまふおっしゃる
言ふ仰すおほすおっしゃる
聞く聞こしめすきこしめすお聞きになる
行くおはすおはすいらっしゃる
行くおはしますおはしますいらっしゃいます
与ふ給ふたまふお与えになる
与ふ賜すたまはすお与えになる
有りおはすおはすいらっしゃる
居りおはしますおはしますいらっしゃる
思ふおぼすおぼす思われる
思ふおぼしめすおぼしめす思われる
大殿籠るおおとのごもるおやすみなさる



尊敬語 例文



【敬語 尊敬語 例文】


心得ず、仰せらる。

「仰す(おほす)」は「言ふ」の尊敬語です。現代日本語訳は「納得できずに、おっしゃる」です。


大臣(おとど)、一首(いっしゅ)、詠むべしと、仰せけり。

「仰す(おほす)」は「言ふ」の尊敬語です。現代日本語訳は「大臣は、一首、詠むべきだと、おっしゃったそうだ」です。


若君(わかぎみ)、市中へ、おはしましける。

「おはします」は「有り」の尊敬語です。 現代日本語訳は「若君が、市中へ、いらっしゃいます」です。


親王(みこ)、大殿籠れり。

「大殿籠る」は「」の尊敬語です。現代日本語訳は「親王は、おやすみになっている」です。


めでたきこと、大袿(おおうちき)、給ふ。

「給ふ(たまふ)」は「与ふ」の尊敬語です。現代日本語訳は「好ましいことに、大袿を、お与えになる」です。


御直垂(おんひたたれ)を、押し出でして、賜せけり。

「賜す(たまはす)」は「与ふ」の尊敬語です。現代日本語訳は「御直垂を、押し出して、お与えになったそうだ」です。


敬語法 背景思想



【敬語法 背景思想】


日本語の敬語法の背景として、儒教思想・王朝思想・言霊思想の、3つの思想を押さえておきたいです。

儒教思想(じゅきょうしそう)とは、古代中国の春秋戦国時代の、孔子(こうし)を祖とします。孔子は社会秩序の安定を求めて、年齢による上下関係を説きました。「親孝行」の「孝(こう)」の字は、儒教思想に由来します。敬語は、若年者(じゃくねんしゃ)から、高齢者(こうれいしゃ)へ、を用います。

王朝思想(おうちょうしそう)とは、古代中国の中央集権制度を祖とします。秦の皇帝(こうてい)と王(おう)の関係のように、身分による上下関係を定め、敬語を用いる制度がありました。古代中国の政治制度は、律令(りつりょう)として、日本列島に影響を与えました。敬語は、現代日本でも「上司」と「部下」の間で、用います。

言霊思想(ことだましそう)とは、日本列島の神道(しんとう)に由来します。神道では、言葉(ことのは)そのものに魂が宿るとして、言葉遣いへ影響を与えます。敬語は、神(かみ
)や鬼(おに)のように、外部から共同体へ招かれる者たちへ、用います。「お月様(おつきさま)」となれば、地球外の天体へ、敬語を用います。

同年代の日本人の子供の間には、年齢による上下関係も、身分による上下関係も、存在しません。しかし、そのような子供同士でも、敬語を用いる場合があります。その基準は「仲が良いか悪いか」や「お互いに仲間かどうか」です。つまり、敬語は、現代日本語においても、共同体の境界を、内外に示す機能を保っています。

言霊思想では、そもそも「相手の名前を呼ぶこと」に、特別な霊力があると、信じます。この思想は、なぜ古典日本語で(そしておそらくは現代日本語でも)主語が省略されやすいのか、理解を助けてくれます。

例えば、源氏物語の主人公である光源氏の母君は、「桐壷の更衣(きりつぼのこうい)」とのみ、呼ばれます。「桐壷」とは内裏の部屋名であり、空間を意味します。「更衣」とは、後宮の位階であり、役職を意味します。現代では、「東京の彼女」や「京都の恋人」や「名古屋の秘書」に相当します。ここでは、彼女の居住空間や、彼女の役割は描かれても、真名(まな)が描かれることはありません。

現代日本語の原型は、平安時代の貴族生活に由来しますが、そこでは2系統の言語を、渾然一体と用いました。公的空間で用いる真名と、私的空間で用いる仮名です。現代日本語でも、公的空間で用いる氏名(しめい)と、私的空間で用いる綽名(あだな)があります。さらに「呼び捨て(よびすて)」という日本語は、他者を呼ぶ行為そのものに、特別の意味を見出しています。

平安時代の日本人も、1つの存在へ、2つ以上の名前を与えていました。例えば、古典日本語「親王」は、教材によって「しんおう」あるいは「みこ」と、振仮名(ふりがな)が異なり、決定できません。しかし、決定できないことに、不思議はありません。現代日本語でも、「月」という漢字を、「げつ」と「つき」と、文脈によって、呼び分けているからです。

真名を直接には呼ばず、代わりに、空間と役職で呼ぶ。存在と言葉の距離を、開いていく。そのような力学が、さらに洗練されると、「そもそも大事なものの名前自体を呼ばない」という境地(きょうち)へと、平安時代の日本人は導かれたのでしょう。つまり、主語を省略することは、最大の敬意の表現なのです。

省略された主語の代わりに、古典日本語では、文末の動詞へと、重心が置かれます。古文作品を味わうために、誰が、いつ、誰に対して、どのような感情で、敬語を用いているか、注目したいです。


尊敬語 問題



【古文 尊敬語 まず覚えたい尊敬語】


以下の空欄へ、尊敬語を書きこみなさい。

平常語尊敬語かな現代訳
言ふ宣ふのたまふおっしゃる
言ふ          おっしゃる
聞く          お聞きになる
行く          いらっしゃる
行く          いらっしゃいます
与ふ          お与えになる
与ふ          お与えになる
有り          いらっしゃる
居り          いらっしゃる
思ふ          思われる
思ふ          思われる
          おやすみなさる





【古文 尊敬語 品詞分解】


敬語について、以下の文章を現代語訳し、解説文を埋めなさい。

古文:心得ず、仰せらる。

現代:     

解説:古文「心得ず、仰せらる」を、品詞分解すると、     となります。

動詞「仰す」は尊敬語で、動詞「     」が平常語で、対応します。

古典日本語「仰す」は、現代日本語「     」へ、継承されました。

この古文には、主語が     されているので、尊敬語「仰す」により、主語を推定します。




古文:大臣(おとど)、一首(いっしゅ)、詠むべしと、仰せけり。

現代:     

解説:古文「大臣、一首、詠むべしと、仰せけり」を、品詞分解すると、     となります。

動詞「仰す」は尊敬語で、動詞「     」が平常語で、対応します。

古典日本語「仰す」は、現代日本語「     」へ、継承されました。

この古文には、敬語名詞     」があるので、敬意の対象が明確です。




古文:若君(わかぎみ)、市中へ、おはしましける。

現代:     

解説:古文「若君、市中へ、おはしましける」を、品詞分解すると、     となります。

動詞「おはします」は尊敬語で、動詞「     」や「     」が平常語で、対応します。

古典日本語「おはします」は、現代日本語「     」へ、継承されました。

この古文には、「若君」という敬語名詞があり、「君」の字は、     を暗示します。




古文:御裳(おも)、唐(から)の御衣(おんころも)の親王、おはしますぞ、いみじき。

現代:     

解説:古文「御裳、唐の御衣の親王、おはしますぞ、いみじき」を、品詞分解すると、     となります。

動詞「おはします」は尊敬語で、動詞「     」や「     」が平常語で、対応します。

古典日本語「おはします」は、現代日本語「     」へ、継承されました。

この古文には、文末には、尊敬語が見当たりません。文末は、形容詞「いみじき」であり、古典日本語では、形容詞は、敬語になりません。しかし、現代日本語では、形容詞も、敬語になりえます。例えば、現代日本語の形容詞「美しい」は、「     」という敬語として、用いる場合があります。




古文:親王(みこ)、大殿籠れり。

現代:     

解説:古文「親王、大殿籠れり」を、品詞分解すると、     となります。

動詞「大殿籠る」は尊敬語で、動詞「     」が平常語で、対応します。

古典日本語「大殿籠る」は、現代日本語「     」へ、継承されました。

この古文には、敬語名詞     」があるので、敬意の対象が明確です。




古文:めでたきこと、大袿(おおうちき)、給ふ。

現代:     

解説:古文「めでたきこと、大袿、給ふ」を、品詞分解すると、     となります。

動詞「給ふ」は尊敬語で、動詞「     」が平常語で、対応します。

古典日本語「「給ふ(たまふ)」は、現代日本語「     」や「     」など、公文書の用語として、継承されました。

大袿(おおうちき)とは、和服の一種です。古典世界では、相手を大事に思う場合に、「衣服」や「武器」や「文房具」など、身体に携帯するものを、贈ります。

この古文には、主語が     されているので、尊敬語「給ふ」により、主語を推定します。




古文:御直垂(おんひたたれ)を、押し出でして、賜せけり。

現代:     

解説:古文「御直垂を、押し出でして、賜せけり」を、品詞分解すると、     となります。

動詞「賜す(たまはす)」は尊敬語で、動詞「     」が平常語で、対応します。

古典日本語「賜す(たまはす)」は、現代日本語「     」など、公共施設の用語として、継承されました。

御直垂(おんひたたれ)とは、和服の一種で、貴族男性の正装です。古典世界では、儀式に臨むにあたり、直垂を着用しました。

この古文には、主語が     されているので、尊敬語「賜す(たまはす)」により、主語を推定します。





【古文 尊敬語 問題記述】


問題:平安時代に、敬語はどのような対象に用いられましたか。

記述:平安時代に、敬語は皇族・後宮・貴族・神職・空間に、用いられました。

皇族の最高権力者は、奈良時代以前は大王(おおきみ)と呼ばれ、平安時代以降は     と呼ばれ、現代日本語では日本国憲法により天皇(てんのう)と呼ばれます。皇族のうち、男性の皇位継承者を     と呼びますが、源氏物語では宮(みや)とも呼ばれています。皇族は、もっとも位階が高く、後宮や貴族は、皇族へ敬語を用います。

後宮は、天皇から寵愛される女性が住むところです。後宮には、女性独自の位階があり、摂関政治で権力の頂点に昇りつめた藤原氏は、娘たちを          として入内(にゅうだい)させました。源氏物語の主人公である光源氏(ひかるげんじ)の母親は、後宮では     という低い身分にも関わらず、天皇から寵愛されたので、他の女性から嫉妬される描写があります。江戸時代になると、武家将軍の後宮として、奥方(おくのかた)という敬称が生まれ、現代日本語の奥さん(おくさん)という敬称へ、変化していきます。貴族は、後宮へ敬語を用います。

貴族は、血統と役職により、位階が定まりました。血統とは、氏(うじ)のことで、藤原氏や蘇我氏が有名です。645年の大化改新(たいかのかいしん)で、天智天皇とともに戦った中臣鎌足は、     という位階を授けられ、中臣鎌足の子孫も用いています。役職とは、貴族の職務内容のことで、701年の大宝律令(たいほうりつりょう)により大枠が定められ、少しづつ整備されていきました。従三位以上の貴族は          と呼ばれ、現代日本語では「幹部」や「重役」に相当します。

貴族は、血統が良ければ、役職も良くなる傾向がありましたが、時代が進むにつれて、血統が良くとも、力量が足らなければ、役職を与えられない事例も増えていき、戦国時代になると     により、血統と役職は必ずしも一致しなくなりました。

神職(しんしょく)は、神道や仏教に関係があり、          などの人間だけではなく、お地蔵様や観音様などの神様にも、敬語を用います。現代日本語の     は、「年の初めに神に詣でる」という意味で、「詣でる」という敬語が用いられています。今昔物語やお伽草紙などの、一般庶民のための民話では、地域を守る聖なる動物にも、敬語を用いています。

空間は、特別な場所へ、敬語を用います。天皇のお住いである     は、江戸時代には禁中(きんちゅう)、現代では御所(ごしょ)と呼ばれています。皇族のご旅行先である     は、現代日本語でそのまま地名となっています。伊勢神宮(いせじんぐう)は、江戸時代の小説では「お伊勢様」と呼ばれています。

敬語の注目すべき機能は、身分の上下関係を定めるだけではなく、むしろ、相手の人格を尊重したり、物事を大切にする文脈でも、用いられることです。現代日本語においても、人間社会の権力関係だけでなく、大切にしたい気持ちとしても、敬語は用いられています。その意味で、敬語は、日本人の感性に影響を与えています。


尊敬語 解答解説



【古文 尊敬語 まず覚えたい尊敬語】


以下の空欄へ、尊敬語を書きこみなさい。

平常語尊敬語かな現代訳
言ふ宣ふのたまふおっしゃる
言ふ仰すおほすおっしゃる
聞く聞こしめすきこしめすお聞きになる
行くおはすおはすいらっしゃる
行くおはしますおはしますいらっしゃいます
与ふ給ふたまふお与えになる
与ふ賜すたまはすお与えになる
有りおはすおはすいらっしゃる
居りおはしますおはしますいらっしゃる
思ふおぼすおぼす思われる
思ふおぼしめすおぼしめす思われる
大殿籠るおおとのごもるおやすみなさる





【古文 尊敬語 品詞分解】


敬語について、以下の文章を現代語訳し、解説文を埋めなさい。

古文:心得ず、仰せらる。

現代:納得できず、おっしゃる。

解説:古文「心得ず、仰せらる」を、品詞分解すると、心得(動詞 心得 未然形)+ず(助動詞 ず 連用形)+仰せ(動詞 仰す 未然形)」+らる(助動詞 らる 終止形)となります。

動詞「仰す」は尊敬語で、動詞「言ふ」が平常語で、対応します。

古典日本語「仰す」は、現代日本語「おっしゃる」へ、継承されました。

この古文には、主語が省略されているので、尊敬語「仰す」により、主語を推定します。




古文:大臣(おとど)、一首(いっしゅ)、詠むべしと、仰せけり。

現代:大臣は、一首、詠むべきと、おっしゃったそうだ。

解説:古文「大臣、一首、詠むべしと、仰せけり」を、品詞分解すると、大臣(名詞)+一首(名詞)+詠む(動詞 詠む 終止形)+べし(助動詞 べし 終止形)+と(助詞 と 引用)+仰せ(動詞 仰す 連用形)+けり(助動詞 けり 終止形)となります。

動詞「仰す」は尊敬語で、動詞「言ふ」が平常語で、対応します。

古典日本語「仰す」は、現代日本語「おっしゃる」へ、継承されました。

この古文には、敬語名詞大臣」があるので、敬意の対象が明確です。




古文:若君(わかぎみ)、市中へ、おはしましける。

現代:若君が、市中へ、いらっしゃいます。

解説:古文「若君、市中へ、おはしましける」を、品詞分解すると、若君(名詞)+市中(名詞)+へ(助詞 へ 対象)+おはしまし(動詞 おはします 連用形)+けり(助動詞 ける 連体形)となります。

動詞「おはします」は尊敬語で、動詞「有り」や「行く」が平常語で、対応します。

古典日本語「おはします」は、現代日本語「いらっしゃる」へ、継承されました。

この古文には、「若君」という敬語名詞があり、「君」の字は、皇族(こうぞく)を暗示します。




古文:御裳(おも)、唐(から)の御衣(おんころも)の親王、おはしますぞ、いみじき。

現代:御裳と、唐衣の(姿の)親王が、いらっしゃるのが、素晴らしい。

解説:古文「御裳、唐の御衣の親王、おはしますぞ、いみじき」を、品詞分解すると、御裳(名詞)+唐(名詞)+の(助詞 の 連体)+御衣(名詞)+の(助詞 の 連体)+親王(名詞)+おはします(動詞 おはします 連体形)+ぞ(助詞 ぞ 係助詞)+いみじき(形容詞 いみじ 連体形)となります。

動詞「おはします」は尊敬語で、動詞「有り」や「行く」が平常語で、対応します。

古典日本語「おはします」は、現代日本語「いらっしゃる」へ、継承されました。

この古文には、文末には、尊敬語が見当たりません。文末は、形容詞「いみじき」であり、古典日本語では、形容詞は、敬語になりません。しかし、現代日本語では、形容詞も、敬語になりえます。例えば、現代日本語の形容詞「美しい」は、「お美しい」という敬語として、用いる場合があります。




古文:親王(みこ)、大殿籠れり。

現代:親王は、おやすみになっている。

解説:古文「親王、大殿籠れり」を、品詞分解すると、親王(名詞)+大殿籠れ(動詞 大殿籠る 已然形)+り(助動詞 り 終止形)となります。

動詞「大殿籠る」は尊敬語で、動詞「寝(ぬ)」が平常語で、対応します。

古典日本語「大殿籠る」は、現代日本語「おやすみなさい」へ、継承されました。

この古文には、敬語名詞親王」があるので、敬意の対象が明確です。




古文:めでたきこと、大袿(おおうちき)、給ふ。

現代:好ましいことに、大袿を、お与えになる。

解説:古文「めでたきこと、大袿、給ふ」を、品詞分解すると、めでたき(形容詞 めでたし 連体形)+こと(名詞)+大袿(名詞)+給ふ(動詞 給ふ 終止形)となります。

動詞「給ふ」は尊敬語で、動詞「与ふ」が平常語で、対応します。

古典日本語「「給ふ(たまふ)」は、現代日本語「給食(きゅうしょく)」や「給付(きゅうふ)」など、公文書の用語として、継承されました。

大袿(おおうちき)とは、和服の一種です。古典世界では、相手を大事に思う場合に、「衣服」や「武器」や「文房具」など、身体に携帯するものを、贈ります。

この古文には、主語が省略されているので、尊敬語「給ふ」により、主語を推定します。




古文:御直垂(おんひたたれ)を、押し出でして、賜せけり。

現代:御直垂を、押し出して、お与えになったそうだ。

解説:古文「御直垂を、押し出でして、賜せけり」を、品詞分解すると、御直垂(名詞)+を(助詞 を 対象)+押し出で(動詞 押し出づ 連用形)+し(動詞 す 連用形)+て(助詞 て 接続)+賜せ(動詞 賜す 連用形)+けり(助動詞 けり 終止形)となります。

動詞「賜す(たまはす)」は尊敬語で、動詞「与ふ」が平常語で、対応します。

古典日本語「賜す(たまはす)」は、現代日本語「恩賜公園(おんしこうえん)」など、公共施設の用語として、継承されました。

御直垂(おんひたたれ)とは、和服の一種で、貴族男性の正装です。古典世界では、儀式に臨むにあたり、直垂を着用しました。

この古文には、主語が省略されているので、尊敬語「賜す(たまはす)」により、主語を推定します。





【古文 尊敬語 問題記述】


問題:平安時代に、敬語はどのような対象に用いられましたか。

記述:平安時代に、敬語は皇族・後宮・貴族・神職・空間に、用いられました。

皇族の最高権力者は、奈良時代以前は大王(おおきみ)と呼ばれ、平安時代以降は帝(みかど)と呼ばれ、現代日本語では日本国憲法により天皇(てんのう)と呼ばれます。皇族のうち、男性の皇位継承者を親王(しんおう)と呼びますが、源氏物語では宮(みや)とも呼ばれています。皇族は、もっとも位階が高く、後宮や貴族は、皇族へ敬語を用います。

後宮は、天皇から寵愛される女性が住むところです。後宮には、女性独自の位階があり、摂関政治で権力の頂点に昇りつめた藤原氏は、娘たちを中宮(ちゅうぐう)皇后(こうごう)として入内(にゅうだい)させました。源氏物語の主人公である光源氏(ひかるげんじ)の母親は、後宮では更衣(こうい)という低い身分にも関わらず、天皇から寵愛されたので、他の女性から嫉妬される描写があります。江戸時代になると、武家将軍の後宮として、奥方(おくのかた)という敬称が生まれ、現代日本語の奥さん(おくさん)という敬称へ、変化していきます。貴族は、後宮へ敬語を用います。

貴族は、血統と役職により、位階が定まりました。血統とは、氏(うじ)のことで、藤原氏や蘇我氏が有名です。645年の大化改新(たいかのかいしん)で、天智天皇とともに戦った中臣鎌足は、朝臣(あそん)という位階を授けられ、中臣鎌足の子孫も用いています。役職とは、貴族の職務内容のことで、701年の大宝律令(たいほうりつりょう)により大枠が定められ、少しづつ整備されていきました。従三位以上の貴族は公卿(くぎょう)上達部(かんだちめ)と呼ばれ、現代日本語では「幹部」や「重役」に相当します。

貴族は、血統が良ければ、役職も良くなる傾向がありましたが、時代が進むにつれて、血統が良くとも、力量が足らなければ、役職を与えられない事例も増えていき、戦国時代になると下剋上(げこくじょう)により、血統と役職は必ずしも一致しなくなりました。

神職(しんしょく)は、神道や仏教に関係があり、禰宜(ねぎ)斎宮(さいぐう)などの人間だけではなく、お地蔵様や観音様などの神様にも、敬語を用います。現代日本語の初詣(はつもうで)は、「年の初めに神に詣でる」という意味で、「詣でる」という敬語が用いられています。今昔物語やお伽草紙などの、一般庶民のための民話では、地域を守る聖なる動物にも、敬語を用いています。

空間は、特別な場所へ、敬語を用います。天皇のお住いである内裏(うち)は、江戸時代には禁中(きんちゅう)、現代では御所(ごしょ)と呼ばれています。皇族のご旅行先である御幸(みゆき)は、現代日本語でそのまま地名となっています。伊勢神宮(いせじんぐう)は、江戸時代の小説では「お伊勢様」と呼ばれています。

敬語の注目すべき機能は、身分の上下関係を定めるだけではなく、むしろ、相手の人格を尊重したり、物事を大切にする文脈でも、用いられることです。現代日本語においても、人間社会の権力関係だけでなく、大切にしたい気持ちとしても、敬語は用いられています。その意味で、敬語は、日本人の感性に影響を与えています。


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