古今和歌集(こきんわかしゅう) 古典作品解説

古今和歌集(こきんわかしゅう) 古典作品解説

古今和歌集(こきんわかしゅう) 古典作品解説

古今和歌集(こきんわかしゅう) 古典作品解説

古今和歌集(こきんわかしゅう)は、平安時代の歌集(かしゅう)です。編者は紀貫之(きのつらゆき)で、平安時代までの和歌を収録しています。古今和歌集は、真名(まな)と仮名(かな)の二つの文字体系によって、序文が執筆されました。大陸由来の漢字と、日本列島由来のやまとことばが、融合した国風文化を背景に持ちます。


【出典作品】

:古今和歌集

【さくひん】

:こきんわかしゅう

【作品別名】

:古今集(ここんしゅう)

【作者編者】

:紀貫之

【さくしゃ】

:きのつらゆき

【成立時代】

:平安時代 > 延喜天暦の治

【作品形式】

:勅撰和歌集(ちょくせんわかしゅう)

【出典紹介】

:古今和歌集(こきんわかしゅう)は、平安時代の歌集(かしゅう)です。編者は紀貫之(きのつらゆき)で、平安時代までの和歌を収録しています。古今和歌集は、真名(まな)と仮名(かな)の二つの文字体系によって、序文が執筆されました。大陸由来の漢字と、日本列島由来のやまとことばが、融合した国風文化を背景とします。古文文法を学びながら、詩歌(しいか)に初挑戦したい生徒におすすめです。難易度は、初級です。日本の高校受験・大学受験でも出題されやすく、現代日本語にも多くの言葉が継承されています。

【魅力要素】

:四季・恋愛・詩歌

【出題頻度】

:A


プロ家庭教師の古文教材で、指導歴10年以上の講師が執筆しています。

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古今和歌集 古典作品解説



【古今和歌集 古典作品解説】


問:古今和歌集の読みは、どうして「こきん」なのですか。「ここん」ではないのですか?
答:古今は、「ここん」ではなく、「こきん」と音読みする慣習があります。これは古今和歌集が編纂された時代(西暦905年 和暦延喜五年)の漢字は、呉音で音読みされていたことに由来します。


問:古今和歌集は、勅撰和歌集(ちょくせんわかしゅう)と呼ばれます。勅撰(ちょくせん)とは、どのような意味ですか?
答:勅撰とは、天皇の命令により編纂されたという意味です。和歌集には、個人によってまとめられた私家集(しかしゅう)と、勅撰によってまとめられた勅撰和歌集があります。勅撰和歌集は、大規模で、複数作家の作品が掲載されます。おすすめは、勅撰和歌集で好きな作家を見つけて、そこから好きな作家の私家集に進んでいくとよいでしょう。


問:古今和歌集は、いずれの御時の勅撰なのですか?
答:古今和歌集は、醍醐天皇(だいごてんのう)の御時の勅撰和歌集です。和暦では延喜五年、西暦では905年に成立したと、紀貫之は仮名序で述べています。


問:古今和歌集は、万葉集と、どのような関係にあるのですか?
答:古今和歌集は、日本初の勅撰和歌集です。奈良時代には万葉集という有名な歌集がありましたが、万葉集は「勅撰」ではありませんでした。しかし、平安時代に生きた紀貫之は、古今和歌集の編纂にあたって、万葉集からの影響を認めており、参考にしたと考えられています。


問:古今和歌集の「たをやめぶり」とは、どのような意味ですか?
答:手弱女振り(たをやめぶり)とは、優美さ・繊細さ・か弱さなどの作風を、表現する用語です。「ぶり」とは、型(かた)への偏愛を意味します。「荒ぶり」「知ったかぶり」「ますらおぶり」「ぶりっ子」など、ある表現形式を統一して、指定します。

古今和歌集 仮名序(かなじょ)


古今和歌集



【仮名序(かなじょ)】




古文:大和歌は、人の心を種として、万の言の葉とぞ、成れりける。
仮名:やまとうたは、ひとのこころをたねとして、よろづのことのはとぞ、なれりける。


古文:世の中にある人、事業、繁きものなれば、
仮名:よのなかにあるひと、ことわざ、しげきものなれば、


古文:心に思ふ事を、見るもの聞くものにつけて、言い出だせるなり。
仮名:こころにおもふことを、みるものきくものにつけて、いひいだせるなり。


古文:花に鳴く鶯、水に棲む蛙の声を聞けば、
仮名:はなになくうぐひす、みづにすむかはづのこゑをきけば、


古文:生きとし生けるもの、いづれか歌を詠まざりける。
仮名:いきとしいけるもの、いづれかうたをよまざりける。


古文:力をも入れずして、天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、
仮名:ちからをもいれずして、あめつちをうごかし、めにみえぬおにかみをもあはれとおもはせ、


古文:男女の仲をも和らげ、猛き武士の心をも、慰むるは歌なり。
仮名:をとこをむなのなかをもやはらげ、たけきもののふのこころをも、なぐさむるはうたなり。


古文:この歌、天地の開け始まりける(時)より出で来にけり。
仮名:このうた、あめつちのひらけはじまりける(とき)よりいできにけり。


古文:しかあれども、世に伝はれる事は、
仮名:しかあれども、よにつたはれることは、


古文:久方の天にしては、下照姫に始まり、
仮名:ひさかたのあめにしては、したてるひめにはじまり、


古文:粗金の土にしては、須佐之男命よりぞ起こりける。
仮名:あらがねのつちにしては、すさのをのみことよりぞおこりける。


古文:千早ぶる神代には、歌の文字も定まらず、素直にして、事の心、分き難かりけらし。
仮名:ちはやぶるかみよには、うたのもじもさだまらず、すなほにして、ことのこころ、わきがたかりけらし。


古文:人の世と成りて、須佐之男命よりぞ、三十文字、余り一文字は、詠みける。
仮名:人のよとなりて、すさのをのみことよりぞ、みそもじ、あまりひともじは、よみける。


古文:かくてぞ、花を愛で、鳥を羨み、霞をあはれび、露を悲しぶ、心言葉多く、様々に成りにける。
仮名:かくてぞ、はなをめで、とりをうらやみ、かすみをあはれび、つゆをかなしぶ、こころことばおほく、さまざまになりにける。


古文:遠き所も、出で立つ足元より始まりて、年月をわたり、
仮名:とほきところも、いでたつあしもとよりはじまりて、年月をわたり、


古文:高き山も、ふもとの塵泥より成りて、天雲たなびくまで、追ひ昇れるごとくに、
仮名:たかき山も、ふもとのちりひぢよりなりて、あまぐもたなびくまで、おひのぼれるごとくに、


古文:この歌も、かくのごとくなるべし。
仮名:このうたも、かくのごとくなるべし。


古文:難波津の歌は、帝の御初なり。
仮名:なにはづのうたは、みかどのおほむはじめなり。


古文:安積山の言葉は、采女の戯ぶれより詠みて、
仮名:あさかやまのことばは、うねめのたはぶれよりよみて、


古文:この二歌は、歌の父母のやうにてぞ、手習う人の始めにもしける。
仮名:このふたうたは、うたのちちははのやうにてぞ、てならふひとのはじめにもしける。


古文:そもそも歌のさま、六つなり。唐の歌にもかくぞあるべき。
仮名:そもそもうたのさま、むつなり。からのうたにもかくぞあるべき。


古文:その六くさの一つには、諷歌。大鷦鷯の帝をそへたてまつれる歌、
仮名:そのむくさのひとつには、そへうた。おほささきのみかどをそへたてまつれるうた、


古文:難波津に、咲くやこの花、冬ごもり、今は春べと、咲くやこの花と、言へるなるべし。
仮名:なにはづに、さくやこのはな、ふゆごもり、いまははるべと、さくやこのはなと、いへるなるべし。


古文:二つには、数へ歌。咲く花に、思ひつくみの、味気なさ、実に労きの、入るも知らずて、と言へるなるべし。
仮名:ふたつにはかぞへうた。さくはなに、思ひつくみの、あぢきなさ、みにいたづきの、いるもしらずて、といへるなるべし。


古文:三つには、準え歌。君に今朝、朝の霜の、起きていなば、恋しきごとに消えや渡らむ、と言へるなるべし。
仮名:みつにはなずらへうた。きみにけさ、あしたのしもの、おきていなば、こひしきごとにきえやわたらむ、といへるなるべし。


古文:四つには譬へ歌。我が恋は、詠むとも尽きじ、荒磯海の、浜の真砂は、詠み尽くすとも、と言へるなるべし。
仮名:よつにはたとへうた。わがこひは、よむともつきじ、ありそうみの、はまのまさごは、よみつくすとも、といへるなるべし。


古文:五つには、ただこと歌。偽りの、無き世なりせば、いかばかり、人の言の葉、うれしからまし、と言へるなるべし。
仮名:いつつには、ただことうた。いつはりの、なきよなりせば、いかばかり、ひとのことのは、うれしからまし、といへるなるべし。


古文:六つには、祝歌。この殿は、むべもとみけり、三枝の、三葉四葉に、殿づくりせり、と言へるなるべし。
仮名:むつには、いはひうた。このとのは、むべもとみけり、さきくさの、みつばよつばに、とのづくりせりと、いへるなるべし。


古文:今の世の中、色につき、人の心は、何なりにけるより、徒なる歌、儚きことのみ出で来れば、
仮名:いまのよのなか、いろにつき、人のこころは、なになりにけるより、あだなるうた、はかなきことのみいでくれば、


古文:色好みの家に、埋木の、人知れぬことと成りて、
仮名:いろごのみのいへに、むもれぎの、ひとしれぬこととなりて、


古文:まめなるところには、花薄、ほに出だすべき事にもあらずなりにたり。
仮名:まめなるところには、はなすすき、ほにいだすべきことにもあらずなりにたり。


古文:その初めを思へば、かかるべくもなむあらぬ。
仮名:そのはじめをおもへば、かかるべくもなむあらぬ。


古文:古の代代の帝、春の花の朝、秋の月の夜毎に、候ふ人人を召して、
仮名:いにしへのよよのみかど、はるのはなのあした、あきのつきのよごとに、さぶらふひとびとをめして、


古文:事につけつつ、歌を奉らしめ給ふ。あるは、花を諷ふとて、頼り無きところに惑ひ、
仮名:ことにつけつつ、うたをたてまつらしめたまふ。あるは、はなをそふとて、たよりなきところにまどひ、


古文:あるは、月を思ふとて、道標なき闇に、辿れる心心を見給ひて、
仮名:あるは、つきをおもふとて、しるべなきやみに、たどれるこころごろをみたまひて、


古文:賢し愚かなりと、しろしめしけむ。
仮名:さかしおろかなりと、知ろしめしけむ。


古文:しかあるのみにあらず、細石に譬へ、筑波山にかけて、君を願ひ、
仮名:しかあるのみにあらず、さざれいしにたとへ、つくばやまにかけて、きみをねがひ、


古文:喜び、身に過ぎ、楽しび、心に余り、
仮名:よろこび、みにすぎ、たのしび、こころにあまり、


古文:富士の煙に譬へて、人を恋ひ、松虫の音に、友を忍び、
仮名:ふじのけぶりによそへて、ひとをこひ、まつむしのねに、ともをしのび、


古文:高砂住江の松も、相生の様に覚え、
仮名:たかさごすみのえのまつも、あひおひのやうにおぼえ、


古文:男山の昔を、思ひ出でて、女郎花の一時をくねるにも、歌を言ひてぞ、慰めける。
仮名:をとこやまのむかしを、おもひいでて、をみなへしのひとときをくねるにも、歌をいひてぞ、なぐさめける。


古文:又、春の朝に、花の散るを見、秋の夕暮に、木の葉の落つるを聞き、
仮名:また、はるのあしたに、はなのちるをみ、あきのゆふぐれに、このはのおつるをきき、


古文:あるは、年毎に、鏡の影に見ゆる、雪と波とを嘆き、
仮名:あるは、としごとに、かがみのかげにみゆる、ゆきとなみとをなげき、


古文:草の露、水の泡を見て、我が身を驚き、
仮名:くさのつゆ、みづのあわをみて、わがみをおどろき、


古文:あるは、昨日は栄え驕りて、(今日は)時を失ひ、世に侘び、親したしかりしも疎くなり、
仮名:あるは、きのふはさかえおごりて、(けふは)ときをうしなひ、よにわび、したしかりしもうとくなり、


古文:あるは、松山の波をかけ、野中の(清)水を汲み、
仮名:あるは、まつやまのなみをかけ、のなかの(し)みづをくみ、


古文:秋萩の下葉を眺め、暁の鴫の羽がきを数へ、
仮名:あきはぎのしたばをながめ、あかつきのしぎのはねがきをかぞへ、


古文:あるは、呉竹の浮節を人に言ひ、吉野川を曳きて、世の中を恨みきつるに、今は富士の山も煙立たずなり、
仮名:あるは、くれたけのうきふしを人にいひ、よしのがはをひきて、よのなかをうらみきつるに、いまはふじのやまもけぶりたたずなり、


古文:長柄の橋も尽くるなりと聞く人は、歌にのみぞ心をば慰めける。
仮名:ながらのはしもつくるなりときくひとは、うたにのみぞこころをばなぐさめける。


古文:古より、かく伝はれるうちにも、奈良の御時よりぞ、広まりにける。
仮名:いにしへより、かくつたはれるうちにも、ならのおほむときよりぞひろまりにける。


古文:かの御世や、歌の心を知しろしめしたりけむ。
仮名:かのおほむよや、うたのこころをしろしめしたりけむ。


古文:かの御時に、正三位、柿本人麻呂なむ、歌の聖なりける。
仮名:かのおほむときに、おほきみ(み)つのくらゐ、かきのもとのひとまろなむ、うたのひじりなりける。


古文:これは君も人も、身を合わせたりと言ふなるべし。
仮名:これはきみもひとも、みをあはせたりといふなるべし。


古文:秋の夕辺、竜田川に流るる紅葉をば、帝の御目に、錦と見給ひ、
仮名:あきのゆふべ、たつたがはにながるるもみぢをば、みかどのおほむめに、にしきとみたまひ、


古文:春の朝、吉野山の桜は、人麻呂が心には、雲かとのみなむ覚えける。
仮名:はるのあした、よしのやまのさくらは、ひとまろがこころには、くもかとのみなむおぼえける。


古文:又、山部赤人と言ふ人、ありけり(と)。
仮名:また、やまのべのあかひとといふひと、ありけり(と)。


古文:歌に妖しう、妙なりけり。
仮名:うたにあやしう、たへなりけり。


古文:人麻呂は、赤人が上に立たむこと難く、
仮名:ひとまろは、あかひとがかみにたたむことかたく、


古文:赤人は、人麻呂が下に立たむこと、難くなむありける。
仮名:あかひとは、ひとまろがしもにたたむこと、かたくなむありける。


古文:この人々を措きて、又、優れたる人も、呉竹の世に聞こえ、片糸のよりよりに絶えずぞありける。
仮名:このひとびとをおきて、また、すぐれたるひとも、くれたけのよにきこえ、かたいとのよりよりにたえずぞありける。


古文:これより先の歌を集めてなむ、万葉集と、名付けられたりける。
仮名:これよりさきのうたをあつめてなむ、まえふしふと、なづけられたりける。


古文:ここに古の事をも、歌の心をも、知れる人、わづかに一人二人なりき。
仮名:ここにいにしへのことをも、うたのこころをも、しれるひと、わづかにひとりふたりなりき。


古文:しかあれど、これかれ得たるところ、得ぬところ、互ひになむある。
仮名:しかあれど、これかれえたるところ、えぬところ、たがひになむある。


古文:かの御時よりこの方、年は百年あまり、世は十継になむなりにける。
仮名:かのおほむときよりこのかた、としはももとせあまり、よはとつぎになむなりにける。


古文:古の事をも、歌をも、知れる人詠む人、多からず。
仮名:いにしへのことをも、うたをも、しれるひとよむひと、おほからず。


古文:今、この事を言ふに、司位高き人をば、たやすきやうなれば、入れず。
仮名:いまこのことをいふに、つかさくらゐたかきひとをば、たやすきやうなれば、いれず。


古文:その他に、近き世にその名聞こえたる人は、すなはち、僧正遍昭は、歌の様は得たれども、誠少なし。
仮名:そのほかに、ちかきよにそのなきこえたるひとは、すなはち、そうじやうへぜうは、うたのさまはえたれども、まことすくなし。


古文:たとへば、絵に描ける女を見て、徒らに心を動かすがごとし。
仮名:たとへば、ゑにかけるをむなをみて、いたづらにこころをうごかすがごとし。


古文:在原業平は、その心余りて、言葉足らず。萎める花の色なくて、匂ひ残れるがごとし。
仮名:ありはらのなりひらは、そのこころあまりて、ことばたらず。しぼめるはなのいろなくて、にほひのこれるがごとし。


古文:文屋康秀は、言葉は巧みにて、その様、身に負はず。言はば、商人のよき衣を着たらむがごとし。
仮名:ふんやのやすひでは、ことばはたくみにて、そのさま、みにおはず。いはば、あきひとのよききぬをきたらむがごとし。


古文:宇治山の僧、喜撰は、言葉は幽かにして、始め終り、確かならず。言はば、秋の月を見るに、暁の雲に遭へるがごとし。詠める歌、多く聞こえねば、かれこれを通はして、よく知らず。
仮名:うぢやまのそう、きせんは、ことばはかすかにして、はじめをはり、たしかならず。いはば、あきのつきをみるに、あかつきのくもにあへるがごとし。よめるうた、おほくきこえねば、かれこれをかよはして、よくしらず。


古文:小野小町は、古の衣通姫の流なり。あはれなる様にて、強からず。言はば、良き女の悩めるところあるに似たり。強からぬは、女の歌なればなるべし。
仮名:をののこまちは、いにしへのそとほりひめのりうなり。あはれなるやうにて、つよからず。いはば、よきをむなのなやめるところあるににたり。つよからぬは、をうなのうたなればなるべし。


古文:大伴黒主は、その様、賤し。言はば、薪おへる山人の、花の影に休めるがごとし。
仮名:おほとものくろぬしは、そのさま、いやし。いはば、たきぎおへるやまびとの、はなのかげにやすめるがごとし。


古文:この他の人人、その名聞こゆる、野辺に生ふる葛の這ひひろごり、林に繁き木の葉のごとくに多かれど、歌とのみ思ひて、その様、知らぬなるべし。
仮名:このほかのひとびと、そのなきこゆる、のべにおふるかづらのはひひろごり、はやしにしげきこのはのごとくにおほかれど、うたとのみおもひて、そのさま、しらぬなるべし。


古文:かかるに、今、天皇の天の下、知ろしめすこと、四季、九回に、なむなりぬる。
仮名:かかるに、いま、すべらぎのあめのした、しろしめすこと、よつのとき、ここのかへりに、なむなりぬる。


古文:遍き、御慈しみの波(の影)、八洲の外まで流れ、
仮名:あまねき、おうつくしみのなみ(のかげ)、やしまのほかまでながれ、


古文:広き、御恵みの影、筑波山の麓よりも、繁くおはしまして、万の政を聞こしめす暇、
仮名:ひろき、おめぐみのかげ、つくばやまのふもとよりも、しげくおはしまして、よろづのまつりごとをきこしめすいとま、


古文:諸諸のことを捨て給はぬあまりに、古の事をも忘れじ、経りにし事を(も)、遣し給ふとて、
仮名:もろもろのことをすてたまはぬあまりに、いにしへのことをもわすれじ、ふりにしことを(も)、おこしたまふとて、


古文:今も見そなはし、後の世にも伝われとて、
仮名:いまもみそなはし、のちのよにもつたはれとて、


古文:延喜五年四月十八日に、大内記紀友則、御書所預紀貫之、前甲斐少目凡河内躬恒、右衛門府生壬生忠岑らに、仰せられて、
仮名:えんぎごねんしがつじうはちにちに、だいだいききのとものり、ごしおどころのあづかりきのつらゆき、さきのかひのさうさかんおふしかうちのみつね、うえもんのふしやうみぶのただみねらに、おほせられて、


古文:万葉集に入らぬ古き歌、自らのをも、奉らしめ給ひてなむ、
仮名:まんようしゅうにいらぬふるきうた、みづからのをも、たてまつらしめたまひてなむ、


古文:それが中に、梅を翳すよりはじめて、
仮名:それがなかに、むめをかざすよりはじめて、


古文:時鳥を聞き、紅葉を折り、雪を見るに至るまで、
仮名:ほととぎすをきき、もみぢををり、ゆきをみるにいたるまで、


古文:又、鶴亀につけて、君を思ひ、人をも祝ひ、秋萩夏草を見て、妻を恋ひ、
仮名:また、つるかめにつけて、きみをおもひ、ひとをもいはひ、あきはぎなつくさをみて、つまをこひ、


古文:逢坂山に至りて、手向けを祈り、あるは、春夏秋冬にも、入らぬ草草の歌をなむ、選ばせ給ひける。
仮名:あふさかやまにいたりて、たむけをいのり、あるは、はるなつあきふゆにも、いらぬくさくさの歌をなむ、えらばせたまひける。


古文:すべて千歌、二十巻、名付けて古今和歌集といふ。
仮名:すべてせんうた、はたまき、なづけてこきむわかしふといふ。


古文:かくこのたび、集め選ばれて、山下、水の絶えず、浜の真砂の数多く積もりぬれば、
仮名:かくこのたび、あつめえらばれて、やました、みづのたえず、はまのまさごのかずおほくつもりぬれば、


古文:今は飛鳥川の瀬になる恨みも聞こえず、
仮名:いまはあすかがはのせになるうらみもきこえず、


古文:細石の巌となる喜びのみぞあるべき。
仮名:さざれいしのいはほとなるよろこびのみぞあるべき。


古文:それ枕詞、春の花、匂ひ少なくして、空しき名のみ、秋の世の長きを託てれば、
仮名:それまくらことば、はるのはな、にほひすくなくして、むなしきなのみ、あきのよのながきをかこてれば、


古文:かつは、人の耳に恐り、かつは、歌の心に恥ぢ思へど、
仮名:かつは、ひとのみみにおそり、かつは、うたのこころにはぢおもへど、


古文:たなびく雲の立ち居、鳴く鹿の起き伏しは、
仮名:たなびくくものたちゐ、なくしかのおきふしは、


古文:貫之らが、この世に同じく生まれて、この事の時に会へるをなむ、喜びぬる。
仮名:つらゆきらが、このよにおなじくむまれて、このことのときにあへるをなむ、よろこびぬる。


古文:人麻呂、亡くなりにたれど、歌の事、留まれるかな。
仮名:ひとまろ、なくなりにたれど、うたのこと、とどまれるかな。


古文:仮令、時移り、殊更楽しび悲しび、行き交ふとも、この歌の文字あるをや。
仮名:たとひ、ときうつり、ことさりたのしびかなしび、ゆきかふとも、このうたのもじあるをや。


古文:青柳の糸絶えず、松の葉の散り失せずして、真拆の葛、長く伝わり、
仮名:あをやぎのいとたえず、まつのはのちりうせずして、まさきのかづら、ながくつたはり、


古文:鳥の跡、久しく留まれらば、歌の様を(も)知り、事の心を得たらん人は、
仮名:とりのあと、ひさしくとどまれらば、うたのさまを(も)しり、ことのこころをえたらむ人は、


古文:大空の月を見るがごとくに、古を仰ぎて、今を恋ひざらめかも。
仮名:おほぞらのつきをみるがごとくに、いにしへをあふぎて、いまをこひざらめかも。


古今和歌集 春歌


古今和歌集



【春歌(はるうた)】



古文:人はいざ 心も知らず 故郷は 花ぞ昔の 香に匂ひける

現代:人間のさあ 心は分からないけれど 故郷では 昔からの花が 美しい香りを放っているのだなあ。

---春歌四十二首 紀貫之---


古今和歌集 秋歌


古今和歌集



【秋歌(あきうた)】



古文:秋の夜は 露こそことに 寒からし 草むらごとに 虫の侘ぶれば

現代:秋の夜は わずかな露でもことのほか 寒いらしい 草むらごとに 虫が侘しく鳴いているので

---秋歌百九十九首 詠人知らず---



古文:竜田川 もみぢ乱れて 流るめり 渡らば錦 中や絶えなむ

現代:竜田川へ 紅葉が乱れて 流れるようだ (もし私が)渡ったら(美しい水面の織物に見える)錦が 途中で切れてしまうだろう(だから切れないように大切にしたい)

---秋歌二百八十三首 詠人知らず---


古今和歌集 賀歌


古今和歌集




【賀歌(がか)】



古文:千鳥鳴く 佐保の川霧 立ちぬらし 山の木葉も 色勝りゆく

現代:千鳥が鳴き 佐保川には霧が 立ったらしい 山の木葉も 色が増していく

---賀歌 三百四十五首 素性法師---


古今和歌集 恋歌


古今和歌集



【恋歌(こいか)】



古文:飛ぶ鳥の 声も聞こえぬ 奥山の 深き心を 人は知らなむ

現代:飛ぶ鳥の 声も聞こえない 山奥の (隠された私の)深い想いを あの人に知らせたいのだ。

---恋歌五三五首 詠人知らず---



古文:いつとても 恋しからずは あらねども 秋の夕べは あやしかりけり

現代:いつでも (会えない恋人が)恋しくなくは ないのだが 秋の夕べは 心が(特にそわそわして)落ち着かないのだ

---恋歌五四六首 詠人知らず---


古今和歌集 哀傷歌


古今和歌集




【哀傷歌(あいしょうか)】



古文:色も香も 昔の濃さに 匂へども 植ゑけむ人の 影ぞ恋しき

現代:色も香りも 昔の濃さに 匂うけれど 植えた人の 面影が恋しいのだ

---哀傷歌八百五十一首 紀貫之---



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