徒然草 十八段 人は己を約やかにし驕りを

徒然草 十八段 人は己を約やかにし驕りを

徒然草 十八段 人は己を約やかにし驕りを

徒然草 十八段 人は己を約やかにし驕りを



徒然草



【十八段 人は、己を約やかにし、驕りを退けて】




【古文】


:人は、己を約やかにし、驕りを退けて、財を有たず、世を貪らざらむぞ、いみじかるべき。



【かな】


:ひとは、おのれをつづまやかにし、おごりをしりぞけて、ざいをもたず、よをむさぼらざらむぞ、いみじかるべき。



【現代語訳】


人は、自分を謙虚にして、驕りを退けて、財産を持たず、世間に強欲でないことが、素晴らしいのだろう。



【品詞分解】


人 は 己 を 約やかに し 驕り を 退け て 財 を 有た ず 世 を 貪ら ざら む ぞ いみじかる べき



【文法解説】


人(名詞) は(格助詞 主語) 己(名詞) を(格助詞 対象) 約やかに(形容動詞 約やかなり 連用形) し(動詞 す 連用形) 驕り(名詞) を(格助詞 対象) 退け(動詞 退く 連用形) て(接続助詞 順接) 財(名詞) を(格助詞 対象) 有た(動詞 有つ 未然形) ず(助動詞 ず 連用形) 世(名詞) を(格助詞 対象) 貪ら(動詞 貪る 未然形) ざら(助動詞 ず 未然形) む(助動詞 む 終止形) ぞ(係助詞) いみじかる(形容詞 いみじ 連体形) べき(助動詞 べし 連体形)



【文章解説】


この文章は、徒然草の第18段です。人生について考察し、処世訓(しょせいくん)が述べられています。





【古文】


:昔より、賢き人の富めるは、稀なり。



【かな】


:むかしより、かしこきひとのとめるは、まれなり。



【現代語訳】


昔から、賢い人間が富裕であることは、稀だ。



【品詞分解】


昔 より 賢き 人 の 富め る は 稀なり



【文法解説】


昔(名詞) より(格助詞 比較) 賢き(形容詞 賢し 連体形) 人(名詞) の(格助詞 主語) 富め(動詞 富む 已然形) る(助動詞 り 連体形) は(格助詞 主語) 稀なり(形容動詞 稀なり 終止形)



【文章解説】


この文章は、富(とみ)について、どのように扱うべきか、考察しています。





【古文】


:唐土に、許由といひつる人は、更に身に隨へる貯へもなくて、



【かな】


:もろこしに、きょいうといひつるひとは、さらにみにしたがへるたくわへもなくて



【現代語訳】


古代中国に、許由といった人は、まったく自分の自由になる貯蓄もなくて、



【品詞分解】


唐土 に 許由 と いひ つる 人 は 更に 身 に 隨へ る 貯へ も なく て



【文法解説】


唐土(名詞) に(格助詞 時空) 許由(名詞) と(格助詞 引用) いひ(動詞 いふ 連用形) つる(助動詞 つ 連体形) 人(名詞) は(格助詞 主語) 更に(副詞) 身(名詞) に(格助詞 対象) 隨へ(動詞 隨ふ 已然形) る(助動詞 り 連体形) 貯へ(名詞) も(副助詞) なく(形容詞 なし 連用形) て(接続助詞 順接)



【文章解説】


この文章は、富(とみ)について、具体例を引用しています。

「唐土(もろこし)」とは、古代中国のことです。古典世界では、唐(とう)・唐(から)・唐土(もろこし)などで、中国大陸を意味します。

「許由(きょゆう)」とは、古代中国の隠者(いんじゃ)です。自然に隠遁(いんとん)し、富と権力から、距離を置きました。

「更に」は、否定語を伴い、「まったく~ない」と現代語訳します。

「隨へる(したがへる)」は、旧字で、「従える」が、新字です。






【古文】


:水をも、手してささげて、飮みけるを見て、生瓢といふ物を、人の得させたりければ、



【かな】


:みずをも、てしてささげて、のみけるをみて、なりひさごといふものを、ひとのえさせたりければ、



【現代語訳】


(許由は)水をも、(容器を持たないので)手を捧げて、飲んでいた(その姿)を(他人が)見て、ヒョウタンという物を、他人が入手させたが、



【品詞分解】


水 を も 手し て ささげ て 飮み ける を 見 て 生瓢 と いふ 物 を 人 の 得 させ たり けれ ば



【文法解説】


水(名詞) を(格助詞 対象) も(副助詞) 手し(動詞 手す 連用形) て(接続助詞 順接) ささげ(動詞 ささぐ 連用形) て(接続助詞 順接) 飮み(動詞 飲む 連用形) ける(助動詞 けり 連体形) を(格助詞 対象) 見(動詞 見る 連用形) て(接続助詞 順接) 生瓢(名詞) と(格助詞 引用) いふ(動詞 いふ 連体形) 物(名詞) を(格助詞 対象) 人(名詞) の(格助詞 主語) 得(動詞 得 未然) させ(助動詞 さす 連用形) たり(助動詞 たり 連用形) けれ(助動詞 けれ 已然形) ば(接続助詞 順接)



【文章解説】


この文章は、富(とみ)について、具体例を引用しています。

「生瓢(なりひさご)」とは、ヒョウタンのことです。古代人は、ヒョウタンをくりぬき、容器として用いました。






【古文】


:ある時、木の枝に掛けたりければ、風に吹かれて鳴りけるを、囂しとて捨てつ。



【かな】


:あるとき、きのえだにかけたりければ、かぜにふかれてなりけるを、かしがましとてすてつ。



【現代語訳】


ある時に、(ヒョウタンを)木の枝に掛けていたので、風に吹かれて鳴っていたのを、やかましいといって捨ててしまった。



【品詞分解】


ある 時 木 の 枝 に 掛け たり けれ ば 風 に 吹か れ て 鳴り ける を 囂し とて 捨て つ



【文法解説】


ある(動詞 あり 連用形) 時(名詞) 木(名詞) の(格助詞 連体) 枝(名詞) に(格助詞 時空) 掛け(動詞 掛く 連用形) たり(助動詞 たり 連用形) けれ(助動詞 けり 已然形) ば(接続助詞 順接) 風(名詞) に(格助詞 受身) 吹か(動詞 吹く 未然形) れ(助動詞 る 連用形) て(接続助詞 順接) 鳴り(動詞 鳴る 連用形) ける(助動詞 ける 連体形) を(格助詞 対象) 囂し(形容詞 囂し 終止形) とて(格助詞 引用) 捨て(動詞 捨つ 連用形) つ(助動詞 つ 終止形)



【文章解説】


この文章は、許由の性格について、描写しています。

「囂し(かしがまし)」とは、うるさく、やかましいことです。






【古文】


:また、手に結びてぞ、水も飮みける。如何ばかり、心の中、涼しかりけむ。



【かな】


:また、てにむすびてぞ、みずものみける。いかばかり、こころのうち、すずしかりけむ。



【現代語訳】


再び、(ヒョウタンを使わないで)手を結んで、水も飮んだそうなのだ。どれくらい、心の中は、(すっきりとして)涼しかっただろう。



【品詞分解】


また 手 に 結び て ぞ 水 も 飮み ける 如何 ばかり 心 の 中 涼しかり けむ



【文法解説】


また(副詞) 手(名詞) に(格助詞 対象) 結び(動詞 結ぶ 連用形) て(接続助詞 順接) ぞ(係助詞) 水(名詞) も(副助詞) 飮み(動詞 飲む 連用形) ける(助動詞 けり 連体形) 如何(名詞) ばかり(副詞) 心(名詞) の(格助詞 連体) 中(名詞) 涼しかり(形容詞 涼し 連用形) けむ(助動詞 けむ 終止形)



【文章解説】


この文章は、許由の物欲の無さについて、描写しています。





【古文】


:孫晨は、冬の月に、衾なくて、藁一束ありけるを、夕にはこれに臥し、朝には収めけり。



【かな】


:そんしんは、ふゆのつきに、ふすまなくて、わらひとつかねありけるを、ゆうにはこれにふし、あさにはをさめけり。



【現代語訳】


孫晨は、冬の月に、布団がなくて、藁一束があったものを、夕方にはこれに横になり、朝には(これを)収納したそうだ。



【品詞分解】


孫晨 は 冬 の 月 に 衾 なく て 藁 一 束 あり ける を 夕 に は これ に 臥し 朝 に は 収め けり



【文法解説】


孫晨(名詞) は(格助詞 主語) 冬(名詞) の(格助詞 連体) 月(名詞) に(格助詞 対象) 衾(名詞) なく(形容詞 なし 連用形) て(接続助詞 順接) 藁(名詞) 一(名詞) 束(名詞) あり(動詞 あり 連用形) ける(助動詞 けり 連体形) を(格助詞 対象) 夕(名詞) に(格助詞 時空) は(格助詞 主語) これ(名詞) に(格助詞 対象) 臥し(動詞 臥す 連用形) 朝(名詞) に(格助詞 時空) は(格助詞 主語) 収め(動詞 収む 連用形) けり(助動詞 けり 終止形)



【文章解説】


この文章は、孫晨の物欲の無さについて、描写しています。

「孫晨(そんしん)」とは、古代中国の隠者(いんじゃ)です。

「衾(ふすま)」とは、平安時代の布団のことです。睡眠中の人間を、保温するための寝具です。

「束(つかね)」とは、細長いものを、1つにまとめた束(たば)のことです。「束ねる(つかねる)」という動詞もあります。






【古文】


:唐土の人は、これを忌みじと思へばこそ、記し留めて、世にも傳へけめ。



【かな】


:もろこしのひとは、これをいみじとおもへばこそ、しるしとどめて、よにもつたうへけめ。



【現代語訳】


中国の人は、これらのことを素晴らしいと思ったからこそ、(本に)記録して、後世に伝えたようなのだ。



【品詞分解】


唐土 の 人 は これ を 忌みじ と 思へ ば こそ 記し 留め て 世 に も 傳へ けめ



【文法解説】


唐土(名詞) の(格助詞 連体) 人(名詞) は(格助詞 主語) これ(名詞) を(格助詞 対象) 忌みじ(形容詞 忌みじ 終止形) と(格助詞 引用) 思へ(動詞 思ふ 已然形) ば(接続助詞 順接) こそ(係助詞) 記し(動詞 記す 連用形) 留め(動詞 留む 連用形) て(接続助詞 順接) 世(名詞) に(格助詞 対象) も(副助詞) 傳へ(動詞 傳ふ 連用形) けめ(助動詞 けり 已然形)



【文章解説】


この文章は、物欲のなさが大事だと、主張をまとめています。

「唐土(もろこし)」とは、古代中国のことです。古典世界では、唐(とう)・唐(から)・唐土(もろこし)などで、中国大陸を意味します。

「傳ふ(つたふ」は、旧字で、「伝ふ」が、新字です。






【古文】


:これらの人は、語りも、傳ふべからず。



【かな】


:これらの人は、かたりも、つたふべからず。



【現代語訳】


これらの人間たち(許由と孫晨)は、語りも、伝わっていないはずだ。



【品詞分解】


これら の 人 は 語り も 傳ふ べから ず



【文法解説】


これら(名詞) の(格助詞 連体) 人(名詞) は(格助詞 主語) 語り(名詞) も(副助詞) 傳ふ(動詞 傳ふ 終止形) べから(助動詞 べし 未然形) ず(助動詞 ず 終止形)



【文章解説】


この文章は、作者が引用した人物(許由と孫晨)について、詳しくは知らないと述べています。

「語り(かたり)」とは、伝承や記録のことです。



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