岩清水物語

岩清水物語

岩清水物語

岩清水物語

【出典作品】:岩清水物語
【さくひん】:いわしみずものがたり
【作者編者】:ー
【さくしゃ】:ー
【成立時代】:鎌倉
【出典紹介】:鎌倉時代に描かれた恋愛物語で、武士が登場してくるのが特徴だ。平安時代を振りかえる時代劇の要素もあります。秋の君(中納言)は京から離れた木幡に住む姫君を迎え取りにいき、姫君に仕える武士の鹿島と出会う。
【出題頻度】:C

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鹿島

「こなたへ」と召し出でたれば、廊の簀子に、いといたうかしこまりて、用意殊に恥づかしげなるさまなど、目も驚き給ひて、「さしも荒々しかるべき兵者の身なれば、さばかりにこそと推し量られつるを、おろかなる思ひやりにもありけるかな。いみじく思ひ上がり、我はと心おごりしたる都の有職たちも、限りあれば、人がらにしたがひて、おしなべゆえゆえしさばかりにやあらん。かばかりなるありさまは、類ひあらじ」と愛で給ひて、うちつけに、いみじうこそ思ひつきぬる心地すれば、「今よりは対面なからん絶え間は、苦しかるべし。京ならんほどは、常に会ひ見るべく」など宣えば、わが心にも、言ひ知らずなまめかしく、愛敬づきたる人の、気高きものから、なつかしくて宣へば、思ひよそふる下の心も添ひて、馴れつかうまつらんことはうれしくおぼえけり。

やがて御送りに参る装ひ、さま殊にいかめしく、ここにも常に参り来べきを、さすがに道遠なるよだけさに、思ふばかりはかなふまじきもわりなかるべきに、なほ疾く思し立つべきよし、聞こえ給ひぬ。

御送りの人を差し添えて、つづき立ちたる響きおびたたしくて、おはし着きて、鹿島をわが御方に召し入れて、 「あやしく、うちつけなるやうに思はれぬべく、はばかりおぼゆれど、いかなるにかあらん、常に睦れまほしき心地する。移りやすき心ならず、我ながら思ひ知らるるを、いとかく俄かにも、人の心はなりゆくものにこそ。同じ心にあひ思はば、うれしからん」など、なつかしう語らひ給へば、うちかしこまりたるさまにて、「かくあやしき民の家に生まれ侍りながら、心は都にのみ進み侍るを、かしこき仰せに、今よりはひとへにつかうまつるべく」など、大人大人しく聞こえなして、心恥づかしげなる、よはひなどいまだきびはなるべきほどなれど、いはけなきところなく目やすきを、まことに思ししみて、ねんごろに語らひ給ふ。むげに暮れ果てぬれば、まかり出でぬ。

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