竹取物語(たけとりものがたり) 古典作品解説

竹取物語(たけとりものがたり) 古典作品解説

竹取物語(たけとりものがたり) 古典作品解説

竹取物語(たけとりものがたり) 古典作品解説

竹取物語(たけとりものがたり)は、平安時代の物語(ものがたり)です。日本最古の仮名文字で執筆された物語です。作者は不詳ですが、漢文と仮名に造詣の深い人物と考えられています。別名として、かぐや姫の物語として有名です。


【出典作品】

:竹取物語

【さくひん】

:たけとりものがたり

【作品別名】

:かぐや姫の物語(かぐやひめのものがたり)

【作者編者】

:ー

【さくしゃ】

:ー

【成立時代】

:平安時代 > 弘仁貞観文化

【作品形式】

:仮名物語(かなものがたり) 歌物語(うたものがたり)

【出典紹介】

:竹取物語(たけとりものがたり)は、平安時代の物語(ものがたり)です。日本最古の仮名文字で執筆された物語です。作者は不詳ですが、漢文と仮名に造詣の深い人物と考えられています。別名として、かぐや姫の物語として有名です。

古文文法を学びながら、物語に初挑戦したい生徒におすすめです。難易度は、初級です。内容が理解しやすいので、日本の高校受験で出題されやすく、大学受験ではほぼ出題されません。現代日本語では、絵本としても再構成されています。

【魅力要素】

:恋愛・月見・幻想・詩歌

【出題頻度】

:A


プロ家庭教師の古文教材で、指導歴10年以上の講師が執筆しています。

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竹取物語 構成



【竹取物語 構成】


あらすじ冒頭文
生い立ち(おいたち)今は昔竹取の翁といふもの
求婚と難題(きゅうこんとなんだい)世界の男貴なるも賤しきも
仏の御石の鉢(ほとけのみいしのはち)猶この女見では世にあるまじき
蓬莱の玉の枝(ほうらいのたまのえだ)車持皇子は心たばかりある人
火鼠の裘(ひねずみのかはごろも)右大臣阿倍御主人は財豊に
龍の首の玉(りゅうのくびのたま)伴御行の大納言は我家にあり
燕の子安貝(つばめのこやすがい)中納言石上麻呂は家に
帝の懸想(みかどのけそう)さてかぐや姫かたち世に似ず
かぐや姫の昇天(かぐやひめのしょうてん)かやうにて御心を互に慰め給ふ


竹取物語 古典作品解説



【竹取物語 古典作品解説】


問:竹取物語は、どうして「仮名物語(かなものがたり)」と呼ばれるのですか?
答:竹取物語は、仮名文字(ひらがな+カタカナ)で執筆されたからです。竹取物語より前は、仮名文字ではなく、漢字で執筆された物語が主流でした。



問:竹取物語は、どうして「歌物語(うたものがたり)」と呼ばれるのですか?
答:竹取物語は、物語の構成に、和歌が含まれるからです。登場人物たちは、感極まる(かんきわまる)と、和歌を詠み、物語を盛り上げます。竹取物語と伊勢物語を読むと、歌物語の基本構成がわかりやすくなるでしょう。



問:竹取物語は、どうして「伝奇物語(でんきものがたり)」と呼ばれるのですか?
答:竹取物語には、科学知識を超えた想像力が描かれるからです。例えば「竹の中から人が生まれる」ことや、「月から使者が訪れる」ことは、科学知識を超えています。

伝奇物語には、室町時代のお伽草紙(おとぎそうし)や、江戸時代の妖怪怪談(ようかいかいだん)も、含まれます。

伝奇小説の別名として、明治以降は、空想科学(くうそうかがく)やSF(えすえふ)とも、呼ばれるようになりました。



問:竹取物語は、後世の作品へ、どのような影響を与えたのですか?
答:竹取物語は、源氏物語へ、恋愛物語として影響を与えています。その証拠として、源氏物語(絵合の段)では「竹取物語は物語の元祖」と引用されています。源氏物語の作者は、竹取物語を読んでいたのですね。



問:竹取物語は、いつ読めばよいですか?
答:竹取物語は、初心者におすすめです。文法も構成も、わかりやすい作品なので、古典作品の導入に相応しいです。女性の恋愛物語である竹取物語と、男性の恋愛物語である伊勢物語を読み、それから、源氏物語へ進むのがおすすめです。



問:竹取物語の「五人の貴公子」とは、誰ですか?
答:竹取物語の「五人の貴公子(ごにんのきこうし)」とは、かぐや姫に求婚する男性たちのことです。結婚を承諾するために、かぐや姫は財宝を条件としました。


【竹取物語 五人の貴公子 まとめ】


人物名仮名財宝
石作皇子いしづくりのみこ天竺の仏の御石の鉢
車持皇子くらもちのみこ蓬莱の玉の枝
右大臣阿倍御主人うだいじんあべのみうし火鼠の革衣
大納言大伴御行だいなごんおおとものみゆき龍の首の玉
中納言石上麿呂ちゅうなごんいそかみまろ燕の子安貝


恋愛物語では、富と権力を持つ貴公子が、女性に求婚するのが相場です。この「貴公子による求愛」という物語形式は、やがて源氏物語へと継承されていきます。



問:竹取物語は、いつ成立したのですか?
答:竹取物語の成立は、仮名文字の発明より後で、源氏物語よりも前です。850年から950年の間と考えられます。




底本:古谷知新. 竹取物語. 國民文庫. 1910.
校訂:矢部祐司 cc-by 東京先生教務部. 2020.
校訂内容:学習教材にふさわしいように、各章段に区別し、段落に整理し、新字旧字を整備し、会話文は「」で示しました。


一段 今は昔竹取の翁といふもの


竹取物語



【一段 今は昔竹取の翁といふもの】




古文:今は昔、竹取の翁といふもの、ありけり。
新字:今は昔、竹取の翁というもの、ありけり。
仮名:いまはむかし、たけとりのおきなというもの、ありけり。
現代:今となっては昔のことで、竹取の翁という者が、いたそうだ。


古文:野山に混じりて、竹を取りつつ、萬の事に使ひけり。
新字:野山に混じりて、竹を取りつつ、万の事に使いけり。
仮名:のやまにまじりて、たけをとりつつ、よろづのことにつかいけり。
現代:野山に分け入って、竹を取りながら、色色なことに使っていたそうだ。


古文:名をば、讃岐造麿となん、言ひける。
新字:名をば、讃岐造麿となむ、言いける。
仮名:なをば、さぬきのみやつこまろとなむ、いいける。
現代:名前を、讃岐造麿と、言ったそうなのだ。


古文:その竹の中に、本光る竹、一筋ありけり。
新字:その竹の中に、本光る竹、一筋ありけり。
仮名:そのたけのなかに、もとひかるたけ、ひとすじありけり。
現代:(翁が取っている)その竹の中に、根元が光る竹が、一本あったそうだ。


古文:怪しがりて、寄りて見るに、筒の中、光りたり。
新字:怪しがりて、寄りて見るに、筒の中、光りたり。
仮名:あやしがりて、よりてみるに、つつのなか、ひかりたり。
現代:不思議に思って、近寄り見ると、筒の中が、光っている。


古文:それを見れば、三寸ばかりなる人、いと美しうて、居たり。
新字:それを見れば、三寸ばかりなる人、いと美しくて、居たり。
仮名:それをみれば、さんすんばかりなるひと、いとうつくしくて、いたり。
現代:それを見ると、三寸ぐらいの人が、とてもかわいらしく、座っている。


古文:翁、言うやう、「われ朝ごと夕ごとに見る、竹の中におはするにて知りぬ、子になり給ふべき人なんめり」とて、手にうち入れて、家に持て来ぬ。
新字:翁、言うよう、「われ朝ごと夕ごとに見る、竹の中におはするにて知りぬ、子になり給うべき人なむめり」とて、手にうち入れて、家に持て来ぬ。
仮名:おきな、いうよう、「われあさごとゆうごとにみる、たけのなかにおはするにてしりぬ、こになりたまうべきひとなむめり」とて、てにうちいれて、いえにもてきぬ。
現代:翁が、言うことには、「私が毎朝毎タに見る、竹の中にいらっしゃるので見つかった。(私の)子供におなりになるはずの人のようだ」 と言って、手に入れて、家へ持って来た。


古文:妻の嫗に、預けて養はす。
新字:妻の嫗に、預けて養わす。
仮名:つまのおうなに、あずけてやしなわす。
現代:妻の嫗に、預けて養わせる。


古文:美しきこと限なし。いと幼ければ、籠に入れて養ふ。
新字:美しきこと限なし。いと幼ければ、籠に入れて養う。
仮名:うつくしきことかぎりなし。いとおさなければ、かごにいれてやしなう。
現代:(その子供は)かわいらしいことに限界がない。とても幼いので、龍に入れて育てる。


古文:竹取の翁、この子を見つけて後に、竹を取るに、節を隔てて、余毎に、金ある竹を見つくること、重りぬ。
新字:竹取の翁、この子を見つけて後に、竹を取るに、節を隔てて、余毎に、金ある竹を見つくること、重りぬ。
仮名:たけとりのおきな、このこをみつけてあとに、たけをとるに、ふしをへだてて、よごとに、きんあるたけをみつくること、かさなりぬ。
現代:竹取の翁は、この子を見つけた後に、竹を取ると、節を隔てて、その間ごとに、黄金の入っている竹を見つけることが、重なった。


古文:かくて、翁、やうやう豐になりゆく。
新字:かくて、翁、ようよう豊になりゆく。
仮名:かくて、おきな、ようようゆたかになりゆく。
現代:こうして、翁は、だんだんとお金持ちになっていく。


古文:この兒、養ふほどに、すくすくと大に成り勝る。
新字:この児、養うほどに、すくすくと大に成り勝る。
仮名:このちご、やしなうほどに、すくすくとだいになりまさる。
現代:この子供は、育てるうちに、すくすくと大きくなっていく。


古文:三月ばかりになる程に、良きほどなる人に成りぬれば、髪上などさだして、髪上せさせ、裳着す。
新字:三月ばかりになる程に、良きほどなる人に成りぬれば、髪上などさだして、髪上せさせ、裳着す。
仮名:みつきばかりになるほどに、よきほどなるひとになりぬれば、かみあげなどさだして、かみあげせさせ、もぎす。
現代:三カ月ぐらいになる頃に、立派な成人女性になったので、髪上げなどの日取りを占って、髪上げをさせ、裳を着せる。


古文:帳の内よりも出さず、慈き傅づき、養ふほどに、この兒のかたち、清けなること世になく、家の内は暗き處なく、光滿ちたり。
新字:帳の内よりも出さず、慈き傅づき、養うほどに、この児のかたち、清げなること世になく、家の内は暗き所なく、光満ちたり。
仮名:ちょうのうちよりもださず、いつきかしづき、やしなうほどに、このちごのかたち、きよげなることよになく、いえのうちはくらきところなく、ひかりみちたり。
現代:家の中からも出さず、慈しみかしづき、育てると、この子供の姿、綺麗なこと世にまたとなく、家の中は暗い所がなく、光が満ちている。


古文:翁、心地悪しく苦しき時も、この子を見れば、苦しき事も止みぬ。腹だたしきことも、慰みけり。
新字:翁、心地悪しく苦しき時も、この子を見れば、苦しき事も止みぬ。腹だたしきことも、慰みけり。
仮名:おきな、ここちあしくくるしきときも、このこをみれば、くるしきこともやみぬ。はらだたしきことも、なぐさみけり。
現代:翁は、気分が悪く苦しい時も、この子を見ると、苦しい事も止まってしまった。腹立たしいことも、慰められたそうだ。


古文:翁、竹を取ること、久しくなりぬ。勢猛の者に、成りにけり。
新字:翁、竹を取ること、久しくなりぬ。勢猛の者に、成りにけり。
仮名:おきな、たけをとること、ひさしくなりぬ。いきおいたけしのものに、なりにけり。
現代:翁は、竹を取ることが、長年に渡った。(竹から見つかる黄金のおかげで)有力者に、成ったそうだ。


古文:この子、いと大になりぬれば、名をば、御室戸齋部秋田を呼びて、付けさす。
新字:この子、いと大になりぬれば、名をば、御室戸斎部秋田を呼びて、付けさす。
仮名:このこ、いとだいになりぬれば、なをば、みむろべさいべのあきたをよびて、つけさす。
現代:この子供が、とても成長したので、名前を、御室戸斎部の秋田を呼んで、(名前を)付けさせる。


古文:秋田、弱竹のかぐや姫と、付けつ。
新字:秋田、弱竹のかぐや姫と、付けつ。
仮名:あきた、なよたけのかぐやひめと、つけつ。
現代:秋田は、なよ竹のかぐや姫と、名付けた。


古文:このほど、三日、打ち上げ、遊ぶ。
新字:このほど、三日、打ち上げ、遊ぶ。
仮名:このほど、みっか、うちあげ、あそぶ。
現代:この(命名の儀式)から、三日、打ち上げ(宴会を開き)、音楽を演奏する。


古文:萬の遊をぞ、しける。男女、嫌はず呼び集へて、いと賢く遊ぶ。
新字:万の遊をぞ、しける。男女、嫌わず呼び集えて、いと賢く遊ぶ。
仮名:よろずのあそびをぞ、しける。をとこをうな、きらわずよびつどえて、いとかしこくあそぶ。
現代:色色な遊びを、したそうだ。男女、区別せずに呼び集めて、とても豪華に遊ぶ。


二段 世界の男貴なるも賤しきも


竹取物語



【二段 世界の男貴なるも賤しきも】




古文:世界の男、貴なるも賤しきも、「いかで、このかぐや姫を得てしがな、見てしがな」と、音に聞き、愛でて惑ふ。
新字:世界の男、貴なるも賤しきも、「いかで、このかぐや姫を得てしがな、見てしがな」と、音に聞き、愛でて惑う。
仮名:せかいのをのこ、あてなるもいやしきも、「いかで、このかぐやひめをえてしがな、みてしがな」と、おとにきき、めでてまどう
現代:世の男性は、身分の高貴(な者)も身分の卑賎(な者)も、「なんとかしてこのかぐや姫を手に入れたいものだ、見てみたいものだ」と、噂話に聞き、恋しく心乱れる。



古文:その傍の垣にも、家の戸にも、居る人だに、容易く見るまじきものを、
新字:その傍の垣にも、家の戸にも、居る人だに、容易く見るまじきものを、
仮名:そのあたりのかきにも、いえのとにも、をるひとだに、たやすくみるまじきものを、
現代:その周辺の垣根にも、家の内にも、居る人でさえ、たやすく見られそうもないのに、



古文:夜は安き寝も寝ず、闇の夜に出でても、穴を抉り、こゝかしこより覗き、垣間見、惑ひあへり。
新字:夜は安き寝も寝ず、闇の夜に出でても、穴を抉り、ここかしこより覗き、垣間見、惑ひあえり。
仮名:よるはやすきいもねず、やみのよにいでても、あなをくじり、ここかしこよりのぞき、かいまみ、まどいあえり。
現代:夜は安眠もせず、闇夜に出てきては、穴を開け、ここそこから覗き見、垣間見て、心を乱し合っていた。



古文:さる時よりなん、「夜這ひ」とは、言ひける。
新字:さる時よりなむ、「夜這い」とは、言いける。
仮名:さるときよりなむ、「よばい」とは、いいける。
現代:その時から、「(求婚することを)夜這い」と、言ったそうなのだ。



古文:人の物ともせぬ處に、惑ひ歩りけども、何の効、あるべくも見えず。
新字:人の物ともせぬ所に、惑い歩りけども、何の効、あるべくも見えず。
仮名:ひとのものともせぬところに、まどいありけども、なにのしるし、あるべくもみえず。
現代:(求婚する男性は)他人が行こうともしない所に、心惑い歩き回るけれども、何の効果も、あるように見えない。



古文:家の人どもに、物をだに言はんとて、言ひ掛くれども、ことゝもせず。
新字:家の人どもに、物をだに言はむとて、言い掛くれども、事ともせず。
仮名:いえのひとどもに、ものをだにいはむとて、いいかくれども、ことともせず。
現代:(かぐや姫の)家の人間たちに、何か言おうとして話しかけるけれど、相手にもしない。



古文:傍を離れぬ公達、夜を明し日を暮す人、多かり。
新字:傍を離れぬ公達、夜を明し日を暮す人、多かり。
仮名:かたわらをはなれぬきんだち、よをあかしひをくらすひと、おおかり。
現代:(かぐや姫の家の)近辺をを離れない貴公子たちは、夜を明かし日を暮らす者が、多い。


古文:愚なる人は、「益なき歩行は、由なかりけり」とて、來ずなりにけり。
新字:愚なる人は、「益なき歩行は、由なかりけり」とて、来ずなりにけり。
仮名:おろかなるひとは、「ようなきありきはよしなかりけり」とて、こずなりにけり。
現代:いい加減な人は「成果のない出歩きは、つまらないことだなあ」と言って、来なくなってしまった。


古文:その中に、猶言ひけるは、色好と言はるゝ限り五人、思ひ止む時なく、夜晝來けり。
新字:その中に、猶言いけるは、色好と言わるる限り五人、思い止む時なく、夜昼来けり。
仮名:そのなかに、なおいいけるは、いろごのみといわるるかぎりごにん、おもいやむときなく、よるひるきけり。
現代:その中で、それでも言い寄ったのは、色好みと言われている人物のみ五人、思いが絶える時なく、夜も昼も(かぐや姫の家へ)通って来たそうだ。


古文:その名、一人は石作皇子、一人は車持皇子、一人は右大臣阿倍御主人、一人は大納言大伴御行、一人は中納言石上麿呂、たゞこの人々なりけり。
新字:その名、一人は石作皇子、一人は車持皇子、一人は右大臣阿倍御主人、一人は大納言大伴御行、一人は中納言石上麻呂、ただこの人人なりけり。
仮名:そのな、ひとりはいしづくりのみこ、ひとりはくらもちのみこ、ひとりはうだいじんあべのみうし、ひとりはだいなごんおおとものみゆき、ひとりはちゅうなごんいそかみまろ、ただこのひとびとなりけり。  
現代:その名前は、一人は石作皇子、一人は車持皇子、一人は右大臣阿倍御主人、一人は大納言大伴御行、一人は中納言石上麻呂、ただこの人達だったそうだ。



古文:世の中に多かる人をだに、少しも形良しと聞きては、見まほしうする人々なりければ、
新字:世の中に多かる人をだに、少しも形良しと聞きては、見まほしくする人人なりければ、
仮名:よのなかにおおかるひとをだに、すこしもかたちよしとききては、みまほしくするひとびとなりければ、
現代:(五人の貴公子たちは)世の中にたくさんいる女性へさえ、少しでも姿が美しいと聞いては、口説いてみたくなる人人であったので、


古文:かぐや姫を見まほしうして、物も食はず思ひつつ、
新字:かぐや姫を見まほしうして、物も食はわず思ひつつ、
仮名:かぐやひめをみまほしうして、ものもくわずおもひつつ、
現代:かぐや姫を口説きたくて、物も食べずに思い続け、


古文:かの家に行きて、佇み、歩きけれども、甲斐あるべくもあらず。
新字:かの家に行きて、佇み、歩きけれども、甲斐あるべくもあらず。
仮名:かのいえにいきて、たたずみ、あるきけれども、かいあるべくもあらず。
現代:彼女の家に行って、佇み、歩いたけれども、成果がありそうもない。


古文:文を書きて、遣れども、返事もせず。わび歌など書きて、遣れども、返しもせず。
新字:文を書きて、遣れども、返事もせず。わび歌など書きて、遣れども、返しもせず。
仮名:ふみをかきて、やれども、へんじもせず。わびうたなどかきて、やれども、かえしもせず。
現代:手紙を書いて、送るけれども、返事もしない。切ない恋心の和歌など書いて、送るけれども、返しもしない。


古文:「甲斐なし」と思へども、十一月十二月の降り凍り、六月の照りはたゝくにも、さはらず、來けり。
新字:「甲斐なし」と思えども、十一月十二月の降り凍り、六月の照りはたたくにも、障らず、来けり。
仮名:「かいなし」とおもえども、しもつきしわすのふりこおり、みなづきのてりはたたくにも、さわらず、きけり。
現代:(貴公子たちは)「成果がない」と思うけれど、十一月十二月の凍りつく(時にも)、六月の日が照りはためく(時にも)、差し障りなく、来たそうだ。


古文:この人々、或時は竹取を呼び出でて、「娘を我に賜べ」と伏し拜み、手を摩り、のたまへど、
新字:この人人、或時は竹取を呼び出でて、「娘を我に賜べ」と伏し拝み、手を摩り、のたまえど、
仮名:このひとびと、あるときはたけとりをよびいでて、「むすめをわれにたべ」とふしおがみ、てをすり、のたまえど、
現代:この人人は、ある時は竹取(の翁)を呼び出して、「娘を私にください」と伏して拝み、手を擦り、おっしゃるが、


古文:「己が成さぬ子なれば、心にも從はずなんある」と言ひて、月日を過す。
新字:「己が成さぬ子なれば、心にも従わずなむある」と言いて、月日を過す。
仮名:「おのがなさぬこなれば、こころにもしたがわずなむある」といいて、つきひをすごす。
現代:(竹取の翁が)「私が生んだ子ではないので、思いどおりに従わないでいるのだ」と言って、月日を過ごす。


古文:かかれば、この人々、家に歸りて、物を思ひ、
新字:かくあれば、この人人、家に帰りて、物を思い、
仮名:かくあれば、このひとびと、いえにかえりて、ものをおもい、
現代:このようなので、この人人は、家に帰って、物思いをし、


古文:祈をし、願を立て、思止めんとすれども、止むべくもあらず。
新字:祈をし、願を立て、思止めむとすれども、止むべくもあらず。
仮名:いのりをし、がんをたて、おもいやめむとすれども、やむべくもあらず。
現代:神仏に折り、願いを立て、思いを止めようとするけれど、止められるわけがなかった。


古文:「さりとも、遂に、男合せざらんやは」と思ひて、頼みを掛けたり。強ちに、志を見えありく。
新字:「さありとも、遂に、男合せざらむやは」と思いて、頼みを掛けたり。強ちに、志を見えありく。
仮名:「さありとも、ついに、おとこあわせざらむやは」とおもいて、たのみをかけたり。あながちに、こころざしをみえありく。
現代:「そうはあっても結局は、(翁はかぐや姫を)男性と結婚させないはずはない」と思って、(貴公子たちは)期待を掛けている。強引に、志を見せて歩き回る。


古文:これを見つけて、翁、かぐや姫に言ふやう、
新字:これを見つけて、翁、かぐや姫に言うよう、
仮名:これをみつけて、おきな、かぐやひめにいうよう、
現代:これを見つけて、翁が、かぐや姫に言うようには、


古文:「我、子の佛、變化の人と申しながら、こゝら大きさまで、養ひ奉る志、疎ならず。翁の申さんこと、聞き給ひてんや」と言へば、
新字:「わが、子の仏、変化の人と申しながら、ここら大きさまで、養い奉る志、疎ならず。翁の申さむこと、聞き給いてむや」と言えば、
仮名:「わが、このほとけ、へんげのひとともうしながら、ここらおおきさまで、やしないたてまつるこころざし、おろかならず。おきなのもうさむこと、ききたまいてむや」といえば、
現代:「私の、仏様のように大切な子よ、変化の人と言っても、このような大きさまで、養いあげた愛情は、いい加減なものではない。翁が申すことを、聞いてくれないだろうか」と言うと、


古文:かぐや姫、「何事をか、宣はん事を、承らざらん。變化の者にて侍りけん身とも知らず、親とこそ思ひ奉れ」といへば、
新字:かぐや姫、「何事をか、宣わむ事を、承らざらむ。変化の者にて侍りけむ身とも知らず、親とこそ思ひ奉れ」といえば、
仮名:かぐやひめ、「なにごとをか、のたまわむことを、うけたまわらざらむ。へんげのものにてはべりけむみともしらず、おやとこそおもひたてまつれ」といえば、
現代:かぐや姫は、「どんなことでも、おっしゃることを、承知しないでしょうか。(いや、どんなことでも、承知します)。変化の者であった身分を忘れて、親とお思いしております」と言うので、


古文:翁、「嬉しくも、宣ふものかな」と言ふ。
新字:翁、「嬉しくも、宣うものかな」と言う。
仮名:おきな、「うれしくも、のたまうものかな」と言う。
現代:翁は、「嬉しいことを、おっしゃるものよ」と言う。


古文:「翁、年七十に餘りぬ。今日とも明日とも知らず。この世の人は、男は女に会ふことをす。女は男に会ふことをす。その後なん、門も廣くなり侍る。いかでか、さる事なくては、おはしまさん」。
新字:「翁、年七十に余りぬ。今日とも明日とも知らず。この世の人は、男は女に会うことをす。女は男に会ふことをす。その後なむ、門も広くなり侍る。いかでか、さる事なくては、おはしまさむ」。
仮名:「おきな、よわいななそぢにあまりぬ。きょうともあしたともしらず。このよのひとは、おとこはおんなにあうことをす。おんなはおとこにあうことをす。そのあとなむ、もんもひろくなりはべる。いかでか、さることなくては、おはしまさむ」。
現代:「翁は、年齢が七十歳を過ぎてしまった。(寿命は)今日とも明日ともわからない。この世界の人間は、男は女と結婚する。女は男と結婚する。その後で、一門(いちもん)が繁栄するのだ。どうして、そのようなこと(結婚すること)をしないでいられるだろうか(いや、必ず結婚するのだ)」。


古文:かぐや姫の言はく、「なでふ、さることか、しはべらん」と言へば、
新字:かぐや姫の言わく、「なでう、さることか、しはべらむ」と言えば、
仮名:かぐやひめのいわく、「なでう、さることか、しはべらむ」といえば、
現代:かぐや姫が言うには、「どうして、そのようなこと(結婚)を、しましょうか(いや、結婚しまい)」と言うので


古文:「變化の人と言ふとも、女の身、持ち給へり。翁のあらん限は、かうても、いますかりなんかし。この人々の年月を經て、かうのみ、いましつつ、宣ふことを思ひ定めて、一人々々に会ひ奉り給ひね」と言へば、
新字:「変化の人と言うとも、女の身、持ち給えり。翁のあらむ限は、こうても、いますがりなむかし。この人人の年月を経て、こうのみ、いましつつ、宣うことを思い定めて、一人一人に会い奉り給いね」と言えば、
仮名:「へんげのひとというとも、おんなのみ、もちたまえり。おきなのあらむかぎりは、こうても、いますがりなむかし。このひとびとのとしつきをへて、こうのみ、いましつつ、のたまうことをおもいさだめて、ひとりひとりにあいたてまつりたまいね」といえば、
現代:変化の人とは言っても、女性の身体を、持っていらっしゃる。翁があるはずの限り(生きている限り)は、このようでも(独身のままでも)、いらっしゃいましょうよ。この人人(五人の貴公子)が、年月を経て、このようなことばかり、おいでになられているので、(翁の)言うことを心に定めて、一人一人と縁談を進めてあげてはどうでしょうか」と言うと、


古文:かぐや姫の言はく、「良くもあらぬ姿を、深き心も知らで、「徒心、尽きなば、後悔しきこともあるべきを」と思ふばかりなり。世の賢き人なりとも、深き志を知らでは、会ひ難しとなん思ふ」と言ふ。
新字:かぐや姫の言わく、「良くもあらぬ姿を、深き心も知らで、「徒心、尽きなば、後悔しきこともあるべきを」と思うばかりなり。世の賢き人なりとも、深き志を知らでは、会い難しとなむ思う」と言う。
仮名:かぐやひめのいわく、「よくもあらぬすがたを、ふかきこころもしらで、「あだごころ、つきなば、こうかいしきこともあるべきを」とおもうばかりなり。よのかしこきひとなりとも、ふかきこころざしをしらでは、あいがたしとなむおもう」という。
現代:かぐや姫が言うには、「美しくもない姿を、深い気持ちも知らないで「いざ(結婚してみたら)浮気心が尽いて、後悔してしまうことにもなるでしょうを」と思うだけなのです。この世界の立派な人であっても、深い愛情を確認しないでは、結婚は難しいと思うのです」と言う。


古文:翁、言はく、「思の如くも、宣ふかな。そもそも、いかやうなる志あらん人にか、会はんと思す。かばかり、志、疎ならぬ人々にこそ、あんめれ」
新字:翁、言わく、「思の如くも、宣うかな。そもそも、いかようなる志あらむ人にか、会わむと思す。かばかり、志、疎ならぬ人人にこそ、あるめれ」
仮名:おきな、いわく、「おもいのごとくも、のたまうかな。そもそも、いかようなるこころざしあらむひとにか、あわむとおもいす。かばかり、こころざし、おろかならぬひとびとにこそ、あるめれ」
現代:翁の言うことには、「(私の)思っている通りに、言いますかな。そもそも、どのような愛情のある人なら、結婚しようとお思いですか。これほど、(貴公子たちは)愛情が、いい加減ではない人人で、あるようですが」


古文:かぐや姫の言はく、「何ばかりの深きをか、見んと言はん。いさゝかのことなり。人の志、等しかんなり。いかでか、中に劣勝は知らん。五人の中に、ゆかしき物、見せ給へらんに、御志、勝りたりとて、仕うまつらんと、そのおはすらん人々に、申し給へ」と言ふ。
新字:かぐや姫の言わく、「何ばかりの深きをか、見むと言わむ。いささかのことなり。人の志、等しかるなり。いかでか、中に劣勝は知らむ。五人の中に、ゆかしき物、見せ給えらむに、御志、勝りたりとて、仕うまつらむと、そのおはすらむ人々に、申し給え」と言う。
仮名:かぐやひめのいわく、「なにばかりのふかきをか、みむといわむ。いささかのことなり。ひとのこころざし、ひとしかるなり。いかでか、なかにおとりまさりはしらむ。ごにんのなかに、ゆかしきもの、みせたまえらむに、みこころざし、まさりたりとて、つかうまつらむと、そのおはすらむひとびとに、もうしたまえ」という。
現代:かぐや姫の言うことには、「どれほどの深い愛情を、見たいとは言いません。少しのことなのです。この人人の愛情は、等しいようです。どうして、その中で優劣が分かりましょうか(いや、愛情の優劣が分かりません)。五人の中で、見たいと思う物を、見せてくださる(人)に、御愛情が、勝っているとして、お仕えしましょうと、そのいらっしゃる(貴公子の)人人に、申してください」と言う。


古文:「良きことなり」と、受けつ。
新字:「良きことなり」と、受けつ。
仮名:「よきことなり」と、うけつ。
現代:(翁は)「良いことだ」と、承知した。


古文:日暮るゝほど、例の、集りぬ。人々、或は笛を吹き、或は歌を歌ひ、或は唱歌をし、或は嘯を吹き、扇を鳴らしなどするに、
新字:日暮るるほど、例の、集りぬ。人人、或は笛を吹き、或は歌を歌い、或は唱歌をし、或は嘘を吹き、扇を鳴らしなどするに、
仮名:ひくるるほど、れいの、あつまりぬ。ひとびと、あるはふえをふき、あるはうたをうたい、あるはしょうかをし、あるはうそをふき、おうぎをならしなどするに、
現代:日が暮れるほどに、いつもの(五人の貴公子)が、集まった。人人は、ある者は笛を吹き、ある者は歌を歌い、ある者は合唱し、ある者は口笛を吹き、扇を鳴らしなどする(ところ)に、


古文:翁、出でて、言はく、「辱くも、汚げなる所に、年月を經て、物し給ふこと、極まりたるかしこまり」と申す。
新字:翁、出でて、言わく、「辱くも、汚げなる所に、年月を経て、物し給うこと、極まりたるかしこまり」と申す。
仮名:おきな、いでて、いわく、「かたじけなくも、きたなげなるところに、ねんげつをへて、ものしたもうこと、きわまりたるかしこまり」ともうす。
現代:翁が、出てきて、言うことには、「みすぼらしくも、汚い所に、長い年月に渡って、おいでくださいますこと、至極に恐縮しております」と申し上げる。


古文:「翁の命、今日明日とも知らぬを、かく宣ふ君達にも、よく思ひ定めて、仕うまつれ、と申せば、深き御心を知らではとなん申す。さ、申すも、理なり。いづれ劣勝おはしまさねば、ゆかしきもの、見せ給へらんに、御志のほどは、見ゆべし。仕うまつらんことは、それになむ定むべき、と言ふ。これ、善きことなり。人の恨もあるまじ」と言へば、
新字:「翁の命、今日明日とも知らぬを、かく宣う君達にも、よく思い定めて、仕うまつれ、と申せば、深き御心を知らではとなむ申す。さ、申すも、理なり。いづれ劣勝おわしまさねば、ゆかしきもの、見せ給えらむに、御志のほどは、見ゆべし。仕うまつらむことは、それになむ定むべき、と言う。これ、善きことなり。人の恨もあるまじ」と言えば、
仮名:「おきなのいのち、きょうあしたともしらぬを、かくのたまうきんだちにも、よくおもいさだめて、つかうまつれ、ともうせば、ふかきみこころをしらではとなむもうす。さ、もうすも、ことわりなり。いづれおとりまさりおわしまさねば、ゆかしきもの、みせたまえらむに、みこころざしのほどは、みゆべし。つかうまつらむことは、それになむさだむべき、という。これ、よきことなり。ひとのうらみもあるまじ」といえば、
現代:「翁の命は、今日明日とも知れないので、このように求婚してくださる貴公子たちにも、よく考え定めて、お仕えなさい、と申しますと、(かぐや姫の返事は)そのように、申すのも、もっともです。どなたも優劣がおありにならないので、見たいと思う物を、見せてくれることに、御愛情の程度は、分かることでしょう。お仕えすること(求婚を承諾すること)は、それで決めましょう、と言う。これは、善いことです。貴公子の恨みもないはずです」と言うので


古文:五人の人々も、「善きことなり」と言へば、翁、入りて、言ふ。
新字:五人の人人も、「善きことなり」と言えば、翁、入りて、言う。
仮名:ごにんのひとびとも、「よきことなり」といえば、おきな、はいりて、いう。
現代:五人の人人も、「善いことです」と言うので、翁は、(家の中に)入って、(かぐや姫へ)言う。


古文:かぐや姫、「石作皇子には、天竺に、佛の御石の鉢、と言ふものあり。それを取りて、給へ」と言ふ。
新字:かぐや姫は、「石作皇子には、天竺に、仏の御石の鉢、と言うものあり。それを取りて、給え」と言う。
仮名:かぐやひめは、「いしづくりのみこには、てんじくに、ほとけのみいしのはちというものあり。それをとりて、たまえ」という。
現代:(翁に促されて)かぐや姫は、「石作皇子には、インドに、仏の御石の鉢、という物があります。それを取って、ください」と言う。


古文:「車持皇子には、東の海に、蓬莱といふ山あんなり。それに白銀を根とし、黄金を莖とし、白玉を實として、立てる木あり。それ一枝折りて、給はらん」と言ふ。
新字:「車持皇子には、東の海に、蓬莱という山あるなり。それに白銀を根とし、黄金を茎とし、白玉を実として、立てる木あり。それ一枝折りて、給わらむ」と言う。
仮名:「くらもちのみこには、ひんがしのうみに、ほうらいというやまあるなり。それにはくぎんをねとし、おうごんをくきとし、しらたまをみとして、たてるきあり。それひとえだおりて、たまわらむ」という。
現代:「車持皇子には、東の海に、蓬莱という山があるそうです。そこに銀を根とし、金を茎とし、白玉を実として、立っている木があります。それを一枝折って、ください」と言う。


古文:「今一人(右大臣阿倍御主人)には、唐土にある、火鼠の裘を、給へ」
新字:「今一人(右大臣阿倍御主人)には、唐土にある、火鼠の革衣を、給え」
仮名:「いまひとり(うだいじんあべのみうし)には、もろこしにある、ひねずみのかわごろもを、たまえ」
現代:「もう一人(右大臣阿倍御主人)には、中国にある、火鼠の革衣を、ください」


古文:「大納言大伴御行には、龍の頸に五色に光る珠あり。それを取りて、給へ」
新字:「大納言大伴御行には、龍の首に五色に光る玉あり。それを取りて、給え」
仮名:「だいなごんおおとものみゆきには、りゅうのくびにごしきにひかるたまあり。それをとりて、たまえ」
現代:「大納言大伴御行には、竜の首に五色に光る玉があります。それを取って、ください」


古文:「中納言石上麿呂には、燕の持たる子安貝一つ、取りて、給へ」と言ふ。
新字:「中納言石上麿呂には、燕の持たる子安貝一つ、取りて、給え」と言う。
仮名:「ちゅうなごんいそかみまろ、つばくらめのもたるこやすがいひとつ、とりて、たまえ」という。
現代:「中納言石上麿呂には、燕の持っている子安貝を一つ、取って、ください」と言う。


古文:翁、「難きことゞもにこそ、あんなれ。この國にある物にもあらず。かく難き事をば、いかに申さん」と言ふ。
新字:翁、「難きことどもにこそ、あるなれ。この国にある物にもあらず。かく難き事をば、いかに申さむ」と言う。
仮名:おきな、「かたきことどもにこそ、あるなれ。このくににあるものにもあらず。かくかたきことをば、いかにもうさむ」という。
現代:翁は、「難しいことのようだ。この国にある物でもない。このような難しいことを、どうして申せよう」と言う。


古文:かぐや姫、「何か難からん」と言へば、
新字:かぐや姫、「何か難からむ」と言えば、
仮名:かぐやひめ、「なにかかたからむ」といえば、
現代:かぐや姫は、「何か難しいことがありましょう(いや、簡単でしょう)」と言うので、


古文:翁、「とまれかくまれ、申さん」とて、出でて、「かくなん、聞ゆるやうに、見せ給へ」と言へば、
新字:翁、「とまれかくまれ、申さむ」とて、出でて、「かくなむ、聞ゆるように、見せ給え」と言えば、
仮名:おきな、「とまれかくまれ、もうさむ」とて、いでて、「かくなむ、きこゆるように、みせたまえ」といえば、
現代:翁は、「ともかく、申してみよう」と言って、(家の外へ)出て、「このように、(かぐや姫が)申すように、お見せください」と言うので、


古文:皇子達、上達部、聞きて、「おいらかに、あたりよりだに、なありきそとやは、宣はぬ」と言ひて、倦んじて、皆、歸りぬ。
新字:皇子達、上達部、聞きて、「おいらかに、あたりよりだに、なありきそとやは、宣わぬ」と言いて、倦むじて、皆、帰りぬ。
仮名:おうじたち、かんだちめ、ききて、「おいらかに、あたりよりだに、なありきそとやは、のたまわぬ」といいて、うむじて、みな、かえりぬ。
現代:皇子たちや、貴族たちは、(かぐや姫の無理難題を)聞いて、「おだやかに、このあたりをうろつくなと、どうしておっしゃらないのか(結婚が嫌なら、普通に嫌だと言えばいいのに、どうして遠回りに無理難題を要求したりするのか)」と言って、嫌になって、みんな、帰ってしまった。



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