初等中等教育改革20190403経済同友会 文書解説

初等中等教育改革20190403経済同友会 文書解説

初等中等教育改革20190403経済同友会 文書解説

初等中等教育改革20190403経済同友会 文書解説


経済同友会(公益社団法人経済同友会)の提言「自ら学ぶ力を育てる初等・中等教育の実現に向けて」の全文+解説まとめです。教育制度研究として、プロ家庭教師が教育資料の原文を、解説しています。2019年04月03日経済同友会は、経営者の視点から21世紀の初等教育(小学校)・中等教育(中学高校)の改革を提言しています。教育ICT活用・教員制度改革・企業採用の3本柱に注目して読解しましょう。背景には情報科学(インターネット・AI・IOT)による第4次産業革命があり、学び方・働き方が変化していく未来像があります。背景知識として、情報科学・教育学・経営学があると、読解しやすくなるでしょう。



【表題】:自ら学ぶ力を育てる初等・中等教育の実現に向けて~将来を生き抜く力を身に付けるために~
【提言団体】:公益社団法人経済同友会
【提言部署】:教育革新委員会
【委員長】:小林いずみ(ANAホールディングス/みずほフィナンシャルグループ/三井物産社外取締役)
【原文URL】原文URL
【原文発表日時】:2019年04月03日


【目次】
子供たちの多様な学びを実現するために
教員養成・研修制度、教員免許制度の抜本改革
多様化する社会に対応した教員養成課程・教員研修への見直し
教員の専門性の再定義
教員養成課程・教員研修等への企業インターンシップの導入
教員免許制度の抜本改革
テクノロジーを活用し、学びの質を高めるための規制・制度改革
年齢主義から修得主義への転換
遠隔教育に関する規制の緩和とICT環境の整備
オンライン結合制限規定等の見直し
教科書制度の改革
企業・コミュニティの役割
採用プロセスの変革
能力の高い10代とプロフェッショナルとして契約する
通年採用の主流化を図る
社員・OB等の教育への関与を推進する
おわりに
教育革新委員会名簿



【解説文】
矢部祐司(教育コンサルタント) 
mail@tokyo-teacher.com

スポンサーさん

初等中等教育改革20190403経済同友会


【原文 I総論】
技術革新や社会の変化が加速し、予測のつかない未来を生き抜く力を身に付けるためには、人生の早い段階で、自ら学び、学びから得られた知識や経験を社会課題の解決に結びつける習慣をつけることが不可欠である。

【解説 I総論】
ここでの技術革新とは、インターネットやAIなどのテクノロジーを指していると思われます。技術革新は、資料によっては「情報革命」「テクノロジー革命」と同義に用いられる場合があります。技術革新による社会変革は、歴史的には産業革命と呼ばれています。

産業革命は、中学・高校の歴史教科書に掲載されています。第1次産業革命により、農村から都市部へと人口が流入し、農業労働から工場労働へと、経済の重点が移動しました。

同じように、原文の「技術革新や社会の変化」は、第4次産業革命とも呼ばれています。ブルーカラー・ホワイトカラーという職業区分は、変化していくと予想されています。具体事例として「金融業界の人材変化」や「AIによる職業代替」を押さえておきましょう。



【原文 I総論 続き】
そうした経験から得られる自信は、多様な他者を受け止める寛容さの基盤でもある。一人ひとり異なる子供たちの能力を最大限引き出すための多様な学びを支えるには、テクノロジーの活用と柔軟な教育制度、コミュニティの参画が必要である。

【解説】
多様性は、近年の教育のキーワードです。多様性はダイバーシティ(Diversity)と同義に用いられる場合があります。

多様性には2つの側面があります。1つめは人種の多様性で、文化言語の異なる環境でも、活躍できる人材が求められています。2つめは、能力の多様性で、文系理系を問わず、さまざまな資質能力を持つ人間と共同作業できる人材が求められてます。



【原文 I総論 続き】
教員の自由度が高まれば、これまで以上に教育の本質に真摯に向き合い、子供たちがワクワクするようなカリキュラムを構築・実践できるようになり、学びの質も高まっていく。そうした好循環を構築し持続させるため、ヒト(教員・事務職員等、学校現場に勤務する人々の機能の見直しと要件の再定義、それらに基づく教員評価・研修プログラムの見直し、教育の本質に立ち返った創意工夫を通じて成果を上げた教員等に報いるインセンティブ設計等)、ツール(遠隔授業、デジタル教科書等)、制度(教員免許制度、教科書検定制度、年齢主義から修得主義への転換、行政機構等)、企業・コミュニティの参画促進をはじめとする教育制度の革新が求められている。

教育制度を取り巻く課題は非常に幅広く、かつ抜本的な改革が必要だが、本提言では、新たな学習指導要領の考え方を早期に実現する観点から、政府等において検討が進められている各種制度および企業が取り組むべきことを中心に、経営者の視点から問題意識を整理した。


【解説】
教員制度改革の概要を述べた文章です。日本の教員の自由裁量がどれくらいあるかは、議論の余地がありますが、本資料では、現場の教員の自由裁量についても、改革の対象としています。日本には検定教科書制度があり、教科書の品質維持に貢献しているとともに、指導内容が横並びになるという限界も指摘されています。

また教員採用・教員評価をどうするのか、具体的な制度設計はこれからでしょう。大規模な制度改革は、ややもすると掛け声倒れに終わる可能性もあります。教育学の学習者としては、提言と実際の教育現場が、どのように影響しあうのか、注意深く見つめる姿勢を養っておきましょう。






【原文 II各論 子供たちの多様な学びを実現するために】
平成元年3月に告示された学習指導要領は、教育課程編成の一般方針として、「学校の教育活動を進めるに当たっては、自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を図るとともに、基礎的・基本的な内容の指導を徹底し、個性を生かす教育の充実に努めなければならない」としている。しかしながら、平成の30年間を経て、当該指導要領に基づく教育を受けた社会人が、こうした能力を十分備えているとは言い難い。

【解説】
経営側から社会に供給される人材について、評価した文章です。学校教育の弊害と議論されているものとして「雇用ミスマッチ」「不登校」「ニート」などがあり、それぞれの用語を押さえておきましょう。興味があれば、きちんと研究書に目を通しておきましょう。


【原文 II各論 子供たちの多様な学びを実現するために 続き】
経営者は、自らを育てる能力を有する人材、言い換えれば、

1 自身の関心・強みを特定し、アプローチを工夫して結果が出るまでやり抜く責任感と意思の強さを持った人材、

2 加速する技術革新を適切に利活用できる倫理感と社会性を有する人材、

3 多様性を受け止める寛容さと自身を表現する力を有する人材――を求めており、企業に所属するか否かに関わらず、将来社会を生き抜く上で、こうした資質・能力がますます重要になると考えている。
まず、初等・中等教育において、学習内容が身に付いていても付いていなくても、一定の年齢に達すれば進級・卒業していく仕組みでは、自ら学び、課題を解決する方法を模索し、納得のいくまでやり抜く習慣は身に付かないため、小学校高学年以降、年齢主義から修得主義への転換を図るべきである。

【解説】
年齢主義から修得主義へ、転換が提言されています。現在の義務教育では、学校に出席さえすれば、そのまま卒業できるので、明らかに年齢主義が採用されています。修得主義となった場合は、飛び級や在級留置(留年)が、義務教育でも許容される可能性があります。



【原文 II各論 子供たちの多様な学びを実現するために 続き】
また、高等教育機関の教員養成課程および国・地方公共団体等が実施している教員研修においては、学びと心の両面で子供の成長を育むためのスキル修得を重視することや、学習の個性化を図る観点から、義務教育の外にあるさまざまな選択肢を含め、子供たちの能力を最大限引き出す機会を提示できるような経験に幅のある人材育成を求める。


【原文 II各論ー1 教員養成・研修制度、教員免許制度の抜本改革】
技術革新や社会の変化に伴い、学校教育に対する期待も変化する中、教員に求められる資質・能力も抜本的に変わりつつある。教員養成については、中央教育審議会答申『これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について』(平成27年12月)を踏まえ、教育職員免許法および同施行規則の改正や『教職課程コアカリキュラム』(平成29年11月)の策定等が行われてきた。また、中央教育審議会は、『新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)』(平成31年1月、以下、働き方改革答申)において、教師の養成・免許・採用・研修全般にわたる改善・見直し等について、引き続き検討を行うこととしている。
初等・中等教育の教員は、子供たちが人生の早い段階で、自ら学び続ける習慣をつける上で非常に重要な役割を果たすことから、文部科学省および各地の教育委員会に対し、以下の改善・見直しを求める。



【原文 II各論ー1ー(1) 多様化する社会に対応した教員養成課程・教員研修への見直し】

1 教員の専門性の再定義

外国人材の増加や経済格差の拡大等に対応しつつ、子供たちの学びの質を高めるには、教員・事務職員等、学校現場に勤務する人々の機能の見直しが必要である。動画や遠隔授業、AI教材等、コンテンツのイノベーションが進展する中、教員に求められるのは、子供たちがワクワクするようなカリキュラムを構築・実践し一人ひとりの興味・関心を引き出すことや、同級生等とのディスカッションを活性化し、各々が自らゴールを設定し学ぶ習慣を身に付けられるよう導くこと等である。

学習指導要領の改訂を踏まえ、教育職員免許法施行規則は、各教科の指導法、教育課程の意義及び編成の方法、教育の方法及び技術、道徳の理論及び指導法、総合的な学習の時間の指導法並びに特別活動の指導法においては、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れることとしている。しかしながら、各教科の指導法に関し、教職課程コアカリキュラムの示す一般目標は、「学習指導要領に示された当該教科の目標や内容を理解する」および「基礎的な学習指導理論を理解し、具体的な授業場面を想定した授業設計を行う方法を身に付ける」の2点であり、教科を問わず教員に求められる専門性の一つであるファシリテーション・スキルの向上等には重点が置かれていない。

教員の専門性を早期に再定義するとともに、大括り化した施行規則の科目区分から「教育の方法及び技術」を独立させ、教員が提供すべき最大の付加価値である、学びと心の両面で子供の成長を育むためのスキル修得について、教員養成課程における必要単位のウェイトを高めるべきである。

2 教員養成課程・教員研修等への企業インターンシップの導入

一人ひとりの興味・関心に応じた学びの機会を用意する上で不可欠な「社会に開かれた教育課程」を実現するためには、その核となる教員が、教育現場のみならず、企業を含む社会のさまざまな現場を経験することが有益である。また、教員の働き方改革を着実に進めるためには、学校現場のマネジメント力向上が不可欠である。

このため、教員養成課程に在籍する学生については、教育職員免許法施行規則を改正し、企業インターンシップについても、学校インターンシップ同様、教育実習の単位として認定可能にすべきである。

また、現職の教員についても、着実にマネジメント力の向上を図り、また子供たちに多様な選択肢を提示できるよう幅広い経験を積む観点から、教育公務員特例法施行令を改正し、特に校長・副校長・教頭等を目指す教員については、夏休み期間等を活用し、4週間程度の企業インターンシップを経験させることを任命権者に義務づけるべきである。各地経済団体等は、中堅教諭等を含め、インターンシップを希望する教員に対する企業の機会提供を積極的に支援する。

【解説】
教育と企業研修の関係を述べた文章です。「学生のインターンシップ」に加えて「教員のインターンシップ」が提言されています。教員が果たすべき社会的役割がどのようなものなのか、考察しておきたいです。現行の学校教科書は「知識(factual knowledge)」が優先され「いわゆる「技術(procedual knowledge)」が少なめではあるでしょう。とはいえ、公教育が仕事に役立つ「技術」を教えるべきかは、議論の余地があります。



【原文 II各論ー1ー(2) 教員免許制度の抜本改革】
加速する技術革新および学習の個性化への対応を進めるためには、幅広い経験と高度な専門性を有する多様な人材が学校運営に参画し、学びの質を向上させる必要がある。先に述べた教員の専門性および教育関係者の役割の再定義を進めると同時に、免許制度や評価制度、インセンティブ設計等も抜本改革する必要がある。

しかしながら、新たな制度設計と実施には一定の時間を要することから、第一段階としては、特別免許状制度の活用を促進すべきである。具体的には、多様な人材を教育現場に登用するとともに、免許外教科担任にかかる現状5を改善するため、2021年度からプログラミングの内容が倍増される中学校の技術および高等学校の情報の分野で同制度の活用を強力に促進すべきである。

文部科学省は、特別免許状の授与に係る教育職員検定等に関する指針(平成26年6月19日、文部科学省初等中等教育局教職員課)を見直し、現在勤務校が負っている特別免許状所有者の研修計画の立案・実施の責任を都道府県教育委員会が負うこととするとともに、同免許状の授与を受けた後3年以上の学校勤務経験がない者の配置割合の上限を緩和すべきである。企業は、情報および技術における人材供給に積極的に協力する。

【解説】
専門性のある人材を、教育現場へ参加させるべきとの文章です。ここまでの文章で、教員が学校外へ出て、企業研修を受ける方法と、社会人出身の教員が学校内へ参加する方法があり、双方向の議論を読み取りましょう。



【原文 II各論ー2 テクノロジーを活用し、学びの質を高めるための規制・制度改革】
子供たちの学びの質を高めるためには、テクノロジーの活用による、学びの効率化と教員の働き方改革が不可欠である。しかしながら、学校におけるICT環境の整備とテクノロジーの活用は、社会全般に比して大きく遅れている。

【解説】
教育現場とテクノロジーの関係を述べた文章です。教育分野で活用される電子機器は「ICT(アイシーティー)機器」とも呼ばれています。日本の学校には、予算規模で格差があり、公教育のすべて学校にICT機器を整備できるかは、不透明です。



【原文 II各論ー2ー(1) 年齢主義から修得主義への転換】
従来は、一人ひとりの進度・理解度に応じた学びを提供するには途方もないマンパワーが必要だったが、テクノロジーを活用することで、一定の領域においては、指導の個別化と子供たちの学びの効率化を図れるようになり、いずれは一人ひとりに最適なカリキュラムをAIが導き出すようになる。また、例えば歴史の年号等、暗記しなくとも検索すれば直ちに調べられる情報も多くなった半面、自分が関心を持った情報にしかアクセスせず、その真偽や大局的な観点からの検証を経ないまま、信じてしまうという問題が生じている。こうした中、自ら適切にゴールを設定するための基礎的な知識構造と読解力の重要性がこれまで以上に高まっている。また、AIの普及が加速する中、革新の進む技術を適切に活用するための倫理観や、AIに代替されない能力を発揮するためのリベラル・アーツにつながる全人的な教育の基礎も義務教育課程において身につける必要がある。

【解説】
教育ICT機器により、学習方法そのものの変革を述べた文章です。教育ICT機器の恩恵として「手間の削減」があります。従来は教員が負担していた答案採点・成績管理・事務連絡などを、今後はテクノロジーが代替していくことは、疑いがないでしょう。

しかし、教育ICTにはもう1つの側面があります。教育ICTはデータを容易に取得・蓄積できるので、従来の生徒管理(集団授業や定期テストなど)の前提が崩れていきます。蓄積されたデータが、人間社会に変化を促していく現象は「ビッグデータ」と呼ばれています。ビッグデータの教育への影響として「集団授業から個別最適へ」という流れを押さえておきましょう。

今後の学校選びでは、ST比(Student teacher ratio 生徒教員比率)も大事な指標になっていくでしょう。ちなみに、日本の予備校は偏差値のランキングを発表していますが、タイムスの大学ランキングではST比のランキングも発表しています。これまでは個別授業は「手間がかかりすぎた」ので、集団授業で「手間がかからない」ようにしてきたという反省があります。個別授業と集団授業の差は、これからますます研究が進むでしょう。



【原文 II各論ー2ー(1) 年齢主義から修得主義への転換 続き】
学校教育法第17条は、義務教育の範囲を年齢で定め、同施行規則は別表において、各教科等それぞれの授業時数や各学年におけるこれらの総授業時数の標準を定めているが、スタディ・ログの活用により、一人ひとりの進度・理解度をより精緻に把握することが可能になった現在、こうした一律の定めは撤廃すべきである。また、将来にわたり個々人の能力を最大限発揮させる観点から、文部科学省は、いわゆる飛び級の制度化や原級留置の運用についても改めて検討し、本人の修得レベルに応じた教育を提供すべきである。

2016年に制定された義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律は、附則において、「施行後三年以内にこの法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づき、教育機会の確保等の在り方の見直しを含め、必要な措置を講ずる」としている。同条項に基づく見直しに際しては、年齢主義に基づき、16歳以上を「学齢期を経過した者」として区分するのではなく、小学校高学年以降、修得した基礎学力の状況に応じた学年に在籍し学習の機会を得られるようにすることで、人生を通じて一人ひとりがその能力を最大限発揮するための礎となる義務教育制度へと変革すべきである。

【解説】
年齢主義から修得主義への変革を提言した文章です。年齢主義がどのように規定されているのか、整理しておきましょう。

2019年において、「教育基本法」が義務教育年齢を規定し、「教育基本法施行規則」が履修すべき単位時間を規定しています。また1993(平成5年)に神戸地裁判決では、長期欠席児童が、5年生の学力を有しておらず、6年生に進級しても授業について行けないので進級処分の取消を求めた事案に対して、地裁は主張を退けています。



【原文 II各論ー2ー(2) 遠隔教育に関する規制の緩和とICT環境の整備】
現行制度は、遠隔授業を「合同授業型」「教師支援型」「教科・科目充実型」の3つの類型に分けており、「合同授業型」および「教師支援型」においては、受信側の教室に、免許外教科担任を含む当該教科の免許状を保有する教師が立ち会うことを前提としている。一方「教科・科目充実型」は、当該教科の免許状の有無を問わず当該学校の教師が立ち会っていれば実施可能で、生徒の多様な科目選択を可能とすることなどを目的に、高等学校においてのみ認められている。

しかしながら、免許外教科担任の教科別の許可件数を見ると、所有免許状教科と関連が深く、相応に専門性のある教科を担当しているとは言えない。こうした状況を踏まえれば、免許外教科担任が立ち会っていることと、当該教科の免許状を有しない当該学校の教師が立ち会っていることの間に合理的な差は認められない。

文部科学省は、中学校においてプログラミングの内容が倍増される2021年度に先立ち、2020年度までに遠隔教育の推進に向けた施策方針を見直し、高等学校同様、小・中学校においても、ニーズに柔軟に対応して「教科・科目充実型」の遠隔授業を実施可能にすべきである。

また、学校におけるICT環境の整備については、2014~2017年度は毎年1,678億円(総額6,712億円)、2018年度からは同1,805億円の地方財政措置を講じてきたが、地方公共団体においては社会保障等の支出が優先され、教育現場のICT化は進んでいない。こうした現状を踏まえ、文部科学省は、総務省と連携し、生徒の所有するICT機器等も活用しながら(BYOD)、学習者用端末1人1台かつWi-Fi接続を可能にするとともに、互換性、価格等を考慮した標準仕様や効率的な機器の調達方法等を示すべきである(図表1、2)。なお、企業は、ICT支援員等の人材供給に協力する。


図表1 学校における教育の情報化の実態

図表1 学校における教育の情報化の実態

図表1 学校における教育の情報化の実態


(資料)文部科学省『学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果』(平成30年3月現在)


図表2 教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数
図表2 教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数

図表2 教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数


(資料)文部科学省『学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果』(平成30年3月現在)


【解説】
公立学校における遠隔授業の実施と、教育ICT機器への経営資源(リソース)の問題を指摘した文章です。これまでも、提言によって正しい理念が唱えられはしても、学校現場の経営資源(予算・人員配備・割当時間)が不足している矛盾が起こってきました。教育学の学習者は、理念への批判的読解力(クリティカル・シンキング)を忘れないようにしたいです。



【原文 II各論ー2ー(3) オンライン結合制限規定等の見直し】
行政機関個人情報保護法はオンライン結合を禁止していないにもかかわらず、多くの地方公共団体ではオンライン結合が制限されていることから、総務省は、『個人情報保護条例の見直し等について(通知)』(平成29年5月19日)において、地方公共団体においても、同法の趣旨を踏まえて個人情報保護条例の見直しを行うなど適切に判断することを求めている。しかしながら、市区町村等において同条項の抹消が進んでおらず、学校現場におけるクラウドサービスの利用を抑制している。
総務省は、条例改正が進まない理由を調査し、改めて適切な対応を行うべきである。また、文部科学省は、2019年度中に行うとしている教育情報セキュリティポリシーガイドラインの見直しを前倒しするとともに、免許状更新講習規則第4条を改正し、同内容を研修の必修項目とすべきである。

【解説】
教育ICT機器による情報活用が制限されていることを危惧した文章です。学校現場でのクラウドサービスは「技術的には可能」ですが「法的には不可能」となっている実情を理解したいです。



【原文 II各論ー2ー(4) 教科書制度の改革】
2019年4月の改正学校教育法等の施行により、検定済教科書の内容を電磁的に記録したデジタル教科書がある場合には、教育課程の一部において、紙の教科書に代えて使用できることとなったが、あくまで紙の教科書が主で、必要に応じてデジタル教科書を併用するという位置づけである。

教育の情報化に対応するとともに、学習の質を高める観点から、教科書制度の本質的な見直しが必要である。その第一段階として、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用できるのは、各学年における各教科等の授業時数の2分の1未満であるとした告示
(平成30年文部科学省第237号)を直ちに撤廃するとともに、デジタル教科書の活用に関するエビデンスの蓄積と並行して、デジタル教科書単体での発行を可能にする検定等のあり方についても検討を急ぎ、早期に結論を得るべきである。

同時に、多様な主体の創意工夫を通じ、教員と子供たちに多くの選択肢を提示する観点から、義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律施行令を見直し、発行主体の資本金および役員要件を緩和すべきである。また、自然科学や史実等、「真実」とされる内容が刻々と変化する中にあって、4年という教科書の最低使用期間にかかる規制も撤廃すべきである。加えて、学校教育法の定める教科用図書採択地区制度の見直しや、教科用図書検定調査審議会の委員を教育のデジタル化を踏まえた構成とする等の改革も進めるべきである。

【解説】
教科書制度の問題点を指摘した文章です。日本の教科書の供給企業は、数世代に渡る実績がありますが、社会変化に対応できるかが問われています。もっとも現場では、優れた教員は自分なりの教材を用いている場合も多いので、どのように制度として教科書を位置づけるかに注目しましょう。何が「技術的には可能」で、何が「法的に可能」なのか、考察していくことで、制度分析のよい訓練となるはずです。




【原文 II各論ー3 企業・コミュニティの役割】
中央教育審議会は、働き方改革答申において、これまで学校・教師が担ってきた代表的な業務のうち、「基本的には学校以外が担うべき業務」「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」に該当するものを整理し、限られたリソースを教員が真に専門性を発揮すべき領域に集中的に投入することを目指している。

学習の質を高める観点から、こうした働き方改革を実現するためには、さまざまなステークホルダーの理解と協力が不可欠であり、保護者でありコミュニティの構成員でもある社員を抱える企業としても応分の役割を果たしていく。


【原文 II各論ー3ー(1) 採用プロセスの変革】

1 能力の高い10代とプロフェッショナルとして契約する

スポーツや将棋の世界では、高い能力を有する10代をプロと認め、グローバルな活躍を後押ししている。また、大学や大企業にも、19世紀から20世紀初頭の20~30代が興したベンチャー等に由来するものが少なくない。しかしながら企業は近年、プロかどうかの判断を大学の卒業証書に頼ってきた。

企業も自社のビジネス領域において確固たる“プロ”の評価基準を整えるとともに、コンテスト等を主催して、義務教育を終えた10代の資質・能力を顕在化させる。また、そうした人材には、年功序列に代表される伝統的雇用慣行にとらわれない契約・報酬体系とキャリアプランを用意し、社会人としての成長を促しつつ、ビジネスの現場で早期に活躍の機会を提供する。

なお、こうした人材がライフステージを通じて就業と学びを行き来して活躍するためには、企業と教育現場の双方に柔軟性が求められる。


2 通年採用の主流化を図る

企業の行動は、高等教育機関における人材育成に影響を与え、ひいては初等・中等教育にも影響を与えている。われわれ経営者は、教育課程とのインターフェースである採用プロセスの変革、特に通年採用の主流化を図るとともに、学業成績および社会課題への取り組みを重視した採用への転換を着実に進めていく。

また、海外留学等を含む多様な経験が、就職活動において評価されることはあっても決して不利にはならないことを含め、求める人材像を子供たちおよび教育機関等に分かりやすく伝える努力を継続する。

【解説】
企業採用と学校教育の関係を述べた文章です。日本企業の新卒一括採用に対して「10代プロフェッショナル制度」と「通年採用」が提案されています。

生徒家庭の教育目標の1つが、優良企業への就職であることは、無視できない現実です。大学ではインターン(企業研修)が実施されていますが、多くの学生は長期に渡り就職活動をします。

教育機関の果たすべき役割は、公共福祉・経済成長・個人投資のどこにあるのか、考えながら読み進めましょう。



【原文 II各論ー3ー(2) 社員・OB等の教育への関与を推進する】
子供たち一人ひとりの興味・関心に応じた学びの機会を提供することで、個々の能力を磨き育てるとともに、学んだ知識・技能を社会課題の解決につなげる方法を体感してもらうためには、各分野における専門性や幅広い経験を有する人材に、教育に関与してもらうことが重要になる。そのためには、教員免許制度の見直しとあわせ、企業がこうした人材の供給源となることが欠かせない。

現役社員については、ボランティア休暇等を活用し、教壇に立ったり、教材開発・提供に貢献したりすることを推進する。また、定年等で新たなライフステージを迎える社員は、海外経験を含む幅広い経験と専門性を活かして教壇に立つことに加え、保護者等への対応や事務の効率化をはじめとする学校運営においても、企業で培った経験を活かすことができる。企業は、退職手続にかかる説明会等における情報提供および地域の教育委員会との連携等を通じ、特別免許状の取得や非常勤講師等としての活躍を支援する。

また、子供たちの学びの場は教室内に限らない。コミュニティを構成する人々が人生100年時代をより豊かに生きるためには、子供たちと高齢者がともにプログラミングやアートを学ぶなど、義務教育の外側にある学びの場を充実させることが必要である。企業は、地域学校協働活動推進員12等への人材供給や、学びと社会の連携推進事業等への参画を通じ、役割を果たしていく。

【解説】
生徒が、労働現場と学校教室に同時平行で所属する制度としては、ドイツのデュアルシステムが有名ですが、開始年齢を何歳とするか、議論がさらに必要かもしれません。



【原文 III おわりに】
技術革新の加速や「人生100年時代」の到来等により、20歳代初頭まで教育機関で連続的に勉強し、就職後はOJT等を受けながら働き続けて定年を迎えるという人生設計がリスクフリーではなくなった。継続的なスキルの更新や社会のニーズに応じたキャリア・チェンジが求められる中、ライフステージを通じて就業と学びを柔軟に行き来することが期待されている。こうした時代を生き抜くためには、人生の早い段階で、子供たちの疑問・好奇心を入口に、自ら学び続ける習慣をつける必要がある。

先に述べた通り、今回は、小学校では2020年度から、中学校では2021年度から実施される学習指導要領の考え方を実現する観点から提言をとりまとめたが、指摘した事項はわれわれの問題意識・議論の一部に過ぎない。約10年に一度という学習指導要領の改訂間隔および定めている内容の細かさ、学校経営のあり方、都道府県教育委員会の事後チェック機関化を含む行政機関全般の役割分担の見直し等、変化する時代に対応するため、義務教育制度を抜本に見直すべき時期が来ている。

われわれ経営者も、横並び主義やことなかれ主義、自前主義、総花主義といった、日本企業の競争力を損なっている諸慣習の打破に取り組むとともに、教育委員として地域の教育政策に携わることや、企業における人材供給やインターンシップの受け入れ、実践的な課題の提供等13を通じ、将来社会を生き抜く力を有する次世代の育成にさまざまな側面から主体的に携わっていく。
以上

【解説】
人生を通じて学び続ける社会像を提言した文章です。主体的な学習能力(アクティブ・ラーニング)は、学校現場だけの問題ではないことが指摘されています。

20世紀の日本企業の特徴であった「終身雇用」「年功序列」「定年退職」などにも、提言は改革を求めています。

共通しているのは、人生のどこかで学びを区切るのではなく、学びながら生活・労働・休業できるような、個人の学習能力こそが人生を支えるという思想でしょう。









【原文 2019年4月教育革新委員会(敬称略)】
委員長
小林いずみ(ANAホールディングス/みずほフィナンシャルグループ/三井物産社外取締役)
副委員長
赤池敦史(シーヴィーシー・アジア・パシフィック・ジャパン取締役社長パートナー)
遠藤信博(日本電気取締役会長)
川名浩一(日揮副会長)
斉藤剛(みさき投資チーフ・エンゲージメント・オフィサー)
渋澤健(シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役)
出口恭子(色空会お茶の水整形外科機能リハビリテーションクリニック副院長)
宮原京子(ファイザー執行役員)
本山和夫(東京理科大学理事長)
委員青木仁志(アチーブメント取締役社長)
荒川詔四(ブリヂストン相談役)
池田弘(NSGホールディングス取締役会長)
石田建昭(東海東京フィナンシャル・ホールディングス取締役社長最高経営責任者)
泉谷直木(アサヒグループホールディングス取締役会長)
伊藤清彦(龍谷大学東京オフィス渉外顧問)
井上智治(井上ビジネスコンサルタンツ代表取締役)
井上ゆかり(日本ケロッグ代表職務執行者社長)
上野幹夫(中外製薬取締役副会長)
植村浩典(ユー・エム・アイ取締役社長)
江幡真史(アドバンテッジリスクマネジメント取締役)
江利川毅(医療科学研究所理事長)
遠藤勝裕(日本学生支援機構)
大岡哲(大岡記念財団理事長)
大賀昭雄(東通産業取締役社長)
大海太郎(タワーズワトソン取締役社長)
大久保和孝(EY新日本有限責任監査法人経営専務理事)
大久保昇(内田洋行取締役社長)
大古俊輔(IDAJ顧問)
大塚俊彦(EMCジャパン取締役社長)
大橋資博(MRI取締役副社長)
岡本比呂志(中央情報学園理事長)
尾﨑哲(野村アセットマネジメント取締役会長)
小野俊彦(東栄電化工業取締役会長)
笠井聡(SOMPOホールディングス介護・ヘルスケア事業オーナー執行役員)
片倉正美(EY新日本有限責任監査法人常務理事)
門脇英晴(日本総合研究所特別顧問・シニアフェロー)
金岡克己(インテック取締役相談役)
河合良秋(キャピタルアドバイザーズグループ議長)
川上登福(経営共創基盤パートナー・取締役マネージングディレクター)
川島貴志(第一生命保険顧問)
河本宏子(ANA総合研究所取締役副社長)
木川眞(ヤマトホールディングス取締役)
菊地義典(菊地歯車取締役社長)
岸上茂(岸上法律事務所代表)
行天豊雄(三菱UFJ銀行名誉顧問)
久保哲也(SMBC日興証券取締役会長)
髙坂節三(日本漢字能力検定協会代表理事会長兼理事長)
髙祖敏明(聖心女子大学学長)
越村敏昭(東京急行電鉄相談役)
齋藤勝己(東京個別指導学院取締役社長)
坂下智保(富士ソフト取締役社長執行役員)
坂本孝行(六興電気取締役兼執行役専務)
志賀俊之(日産自動車取締役)
清水新一郎(日本航空取締役専務執行役員)
下村朱美(ミス・パリ代表取締役)
鈴木国正(インテル取締役社長)
鈴木雅子(ベネフィット・ワン取締役副社長執行役員)
住谷栄之資(KCJGROUP取締役社長兼CEO)
関根愛子(日本公認会計士協会会長)
反町雄彦(東京リーガルマインド取締役社長)
高木邦格(国際医療福祉大学理事長)
髙木純夫(日本漢字能力検定協会執行役員)
髙橋栄一
高橋衛(HAUTPONT研究所代表)
田久保善彦(グロービス経営大学院大学常務理事)
田代桂子(大和証券グループ本社取締役兼執行役副社長)
多田幸雄(双日総合研究所相談役)
田中能之(デュポン取締役社長)
玉川雅之(工学院大学常務理事)
淡輪敬三(ビービット顧問)
塚本恵(キャタピラージャパン代表執行役員)
手納美枝(アカシアジャパン・デルタポイント代表取締役)
曄道佳明(上智学院上智大学長)
土居征夫(武蔵野大学)
長久厚(DNAパートナーズ代表社員)
中村克己(ブラックストーンシニアアドバイザー)
楢﨑浩一(SOMPOホールディングスグループCDO常務執行役員)
新倉恵里子(東和エンジニアリング取締役社長)
西恵一郎(グロービスマネジング・ディレクター)
野坂茂(日本オラクル取締役副会長)
信井文夫(映像新聞社取締役会長)
芳賀日登美(ストラテジックコミュニケーションRI取締役社長)
畑川高志(リバフェルド代表取締役)
林明夫(開倫塾取締役社長)
林恭子(グロービスマネジング・ディレクター)
林達夫(アークデザイン取締役会長)
林礼子(メリルリンチ日本証券副会長)
半田純一(マネジメント・ウィズダム・パートナーズ・ジャパン取締役社長)
坂東眞理子(昭和女子大学理事長・総長)
日色保(日本マクドナルド取締役社長兼CEO)
挽野元(アイロボットジャパン代表執行役員社長)
日比谷武(上智大学)
平野圭一(アクティヴィ代表取締役CEO)
ハリー・A・ヒル(オークローンマーケティング取締役)
廣岡哲也(フージャースホールディングス取締役社長)
広瀬道明(東京ガス取締役会長)
福田桂子(アクサ生命保険執行役員)
本田勝彦(日本たばこ産業社友)
益戸正樹(UiPath特別顧問)
増渕稔(日本証券金融取締役会長)
松林知史(ティルフ・マネジメント代表)
蓑田秀策(オプトホールディング取締役)
宮内孝久(神田外語大学学長)
向井宏之(トランスコスモス副社長執行役員)
室伏きみ子(お茶の水女子大学学長)
森健(プログビズ代表取締役)
森哲也(日栄国際特許事務所弁理士・学術博士・会長)
森正勝(国際大学特別顧問)
森口隆宏(神戸大学経営協議会委員)
山口公明(セントケア・ホールディング取締役)
山中祥弘(ハリウッド大学院大学学長・理事長)
吉田知明(個別指導塾スタンダード代表取締役)
和田裕(マッハコーポレーション取締役会長)
渡部一文(アマゾンジャパンバイスプレジデント)

以上114名

事務局菅原晶子(経済同友会執行役)
山本郁子(経済同友会政策調査部グループ・マネジャー)
山田孝子(経済同友会政策調査部マネジャー)






【参考文献】
経済同友会
 
子供がニート家庭の共通点・対策・予防

年齢主義と修得主義 履修主義と課程主義

Keith Sawyer. The Cambridge Handbook of the Learning Sciences. 2014.

National Academies of Science Engineering and Medicine. How People Learn II Learners, Contexts and Cultures. 2018.

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