漢詩の基礎知識

漢詩の基礎知識

漢詩の基礎知識

漢詩の基礎知識

古典漢文の漢詩入門です。漢詩(かんし)とは、漢文で執筆した詩歌(しいか)で、漢字文化圏の遺産です。


【漢詩 定型詩 絶句と律詩】


漢詩は、形式が定まっている定型詩(ていけいし)です。四句で構成する漢詩を絶句(ぜっく)と呼び、八句で構成する漢詩を律詩(りっし)と呼びます。



【漢詩 文字数 五言と七言】


漢詩は、一句の文字数により、五言(ごごん)と七言(しちごん)に区別されます。

四句構成八句構成
一句当たり五文字五言絶句五言律詩
一句当たり七文字七言絶句七言律詩





プロ家庭教師の漢文教材で、指導歴10年以上の講師が執筆しています。

スポンサーさん

五言絶句 具体例

五言絶句 具体例

五言絶句 具体例


【五言絶句とは】


五言絶句(ごごんぜっく)とは、一句当たりの文字数が五文字で、四句で構成する漢詩です。つまり、五文字が四句あるので、全体で二十文字の漢詩になります。



【五言絶句 具体例】


$\Large空 山 不 見 人$

$\Large但 聞 人 語 響$

$\Large返 景 入 深 林$

$\Large復 照 青 苔 上$



この五言絶句は、唐時代の王維(おうい)の漢詩です。題名は鹿柴(ろくさい)です。鹿柴とは、鹿を囲うための柵のことです。


漢文:$\Large空 山 不\textcolor{YellowGreen}{_レ}見\textcolor{YellowGreen}{_レ}人$

書下:空 山 人を 見ず

かな:くう ざん ひとを みず

日文:空になった山には、人影も見えない。

解説:五言絶句の第一句です。「空山」とは人気のない忘れられた山のことです。



漢文:$\Large但 聞\textcolor{YellowGreen}{_二}人 語 響\textcolor{YellowGreen}{_一}$

書下:但だ 人語の 響きを 聞くのみ

かな:ただ じんごの ひびきを きくのみ

日文:ただ、人の話し声の響きだけが、聞こえる。

解説:五言絶句の第二句です。「人語」とは人の話し声のことです。



漢文:$\Large返 景 入\textcolor{YellowGreen}{_二}深 林\textcolor{YellowGreen}{_一}$

書下:返景 深林に 入り

かな:はんえい しんりんに はいり

日文:夕方の西日が、森林に射しこむ。

解説:五言絶句の第三句です。「返景」とは「反対に向いた光」のことで、西日を意味します。


漢文:$\Large復 照\textcolor{YellowGreen}{_二}青 苔 上\textcolor{YellowGreen}{_一}$

書下:復た 青苔の 上を 照らす

かな:また あおこけの うえを てらす

日文:(朝陽と同じように夕陽も)また、青い苔の上を、照らしている。

解説:五言絶句の第四句です。「復」とは「繰り返し」のことで、朝陽と夕陽が繰り返し照らしているという意味です。「青苔」は、東洋では「なごやかさ」を象徴する植物ですね。作者は、自然の静けさが美しいと、漢詩で詠んでいます。




【五言絶句 押韻】


五言絶句では、押韻(おういん)を踏みます。押韻とは、同じ発音が現れることです。

五言絶句では、第二句と第四句の終わりに、音韻を踏みます。五言絶句の音韻は、偶数句末です。

第一句:$\Large空 山 不 見 人$

第二句:$\Large但 聞 人 語 \textcolor{orangered}{響}$

第三句:$\Large返 景 入 深 林$

第四句:$\Large復 照 青 苔 \textcolor{orangered}{上}$


鹿柴では、響(kyou)上(zyou)で音韻を踏んでいますね。

漢字の音がわかりにくい時は、音読(おんよみ)してみましょう。音読は、もともと中国語由来の発音なので、音韻が探しやすくなります。

七言絶句 具体例

七言絶句 具体例

七言絶句 具体例


【七言絶句とは】


七言絶句(しちごんぜっく)とは、一句当たりの文字数が七文字で、四句で構成する漢詩です。つまり、七文字が四句あるので、全体で二十八文字の漢詩になります。



【七言絶句 具体例】


$\Large誰 家 玉 笛 暗 飛 声$

$\Large散 入 春 風 満 洛 城$

$\Large此 夜 曲 中 聞 折 柳$

$\Large何 人 不 起 故 園 情$



この七言絶句は、唐時代の李白(りはく)の漢詩です。題名は春夜洛城聞笛(しゅんやらくじょうにふえをきく)です。長い題名ですが、美しい詩です。洛城とは、古代中国の首都であった洛陽(らくよう)のことです。


漢文:
$\Large誰 家 玉 笛 暗 飛\textcolor{YellowGreen}{_レ}声$

書下:誰が 家の 玉笛ぞ 暗に 声を 飛ばす

かな:だれが いえの ぎょくてきぞ あんに こえを とばす

日文:誰の家の、美しい笛の音だろうか。暗闇に、笛の音が、飛ぶように聞こえてくる。

解説:七言絶句の第一句です。「玉笛」とは美しい笛のことです。「玉」とは、東洋文化で宝石のように価値があるものを象徴します。「暗」とは、暗闇ではっきりとわからない状態のことです。



漢文:
$\Large散 入\textcolor{YellowGreen}{_二}春 風\textcolor{YellowGreen}{_一}満\textcolor{YellowGreen}{_二}洛 城\textcolor{YellowGreen}{_一}$

書下:散じて 春風に 入りて 洛城に 満つ

かな:さんじて しゅんぷうに いりて らくじょうに みつ

日文:(美しい笛の音が)あたりに散り、春風に混ざり、洛陽の街に、満ちている。

解説:七言絶句の第二句です。主語は省略されていますが、「玉笛」が主語です。玉笛の音が、春風に混ざり、幻想的な世界が描かれています。



漢文:
$\Large此 夜 曲 中 聞\textcolor{YellowGreen}{_二}折 柳\textcolor{YellowGreen}{_一}$

書下:此の 夜 曲中 折柳を 聞く

かな:この よ きょくちゅう せつりゅうを きく

日文:この夜に、(私に聞こえた)曲の中に、折楊柳(というみんなに愛されている曲)があった。

解説:七言絶句の第三句です。「折柳」とは「折楊柳」の省略形で、古代の漢詩を引用しています。ここでの引用は「定番の愛されている歌」の意味です。


漢文:
$\Large何 人 不\textcolor{YellowGreen}{_レ}起\textcolor{YellowGreen}{_二}故 園 情\textcolor{YellowGreen}{_一}$

書下:何人か 故園の 情を 起こさ ざらん

かな:なんびとか こえんの じょうを おこさ ざらん

日文:いったい誰が、故郷を懐かしむ気持ちを、起こさずにいられるだろうか。(いや、誰もが懐かしむ気持ちを起こすのだ)

解説:七言絶句の第四句です。「故園」とは「故郷」のことです。「故園情」で、「故郷を懐かしむ気持ち」という意味になります。美しい笛から、慣れ親しんだ歌が聞こえ、誰もが故郷の愛しさを味わっています。




【七言絶句 押韻】


七言絶句では、押韻(おういん)を踏みます。押韻とは、同じ発音が現れることです。

七言絶句では、第一句と第二句と第四句の終わりに、音韻を踏みます。七言絶句の音韻は、初句末+偶数句末です。

第一句:
$\Large誰 家 玉 笛 暗 飛 \textcolor{orangered}{声}$

第二句:
$\Large散 入 春 風 満 洛 \textcolor{orangered}{城}$

第三句:
$\Large此 夜 曲 中 聞 折 柳$

第四句:
$\Large何 人 不 起 故 園 \textcolor{orangered}{情}$


春夜洛城聞笛の漢詩では、声(syou)城(jiyou)情(jiyou)で音韻を踏んでいますね。

五言律詩 具体例

五言律詩 具体例

五言律詩 具体例


【五言律詩とは】


五言律詩(ごごんりっし)とは、一句当たりの文字数が五文字で、八句で構成する漢詩です。つまり、五文字が八句あるので、全体で四十文字の漢詩になります。



【五言律詩 具体例】


$\Large国 破 山 河 在$

$\Large城 春 草 木 深$

$\Large感 時 花 濺 涙$

$\Large恨 別 鳥 驚 心$

$\Large烽 火 連 三 月$

$\Large家 書 抵 萬 金$

$\Large白 頭 掻 更 短$

$\Large渾 欲 不 勝 簪$



この五言律詩は、唐時代の杜甫(とほ)の漢詩です。題名は春望(しゅんぼう)です。「望」は「遠くに広がる景色」のことです。現代日本語では、「未来の目標」という意味で継承されていますね。


漢文:$\Large国 破 山 河 在$

書下:国 破れて 山河 在り

かな:くに やぶれて さんが あり

日文:都は、破壊され、山河だけが、ある。

解説:五言律詩の第一句です。「国」とは、大都会のことです。ここでは、唐の首都である長安(ちょうあん)を意味しています。



漢文:$\Large城 春 草 木 深$

書下:城 春にして 草木 深し

かな:しろ はるにして くさき ふかし

日文:城壁は 春が来て 草木は 深く茂る。

解説:五言律詩の第二句です。「城」とは「街を囲む壁」のことです。ここでは、長安を防御する城壁(じょうへき)を意味しています。



漢文:$\Large感\textcolor{YellowGreen}{_レ}時 花 濺\textcolor{YellowGreen}{_レ}涙$

書下:時に 感じて 花に 涙を 濺ぐ

かな:ときに かんじて はなに なみだを そそぐ

日文:(乱世という)時代に感じて、花に涙を注ぐ。

解説:五言律詩の第三句です。「時」とは「時代」のことです。ここでは「国が破れるような乱世」を意味しています。「濺」は「注」の旧字体で、水の流れを意味します。



漢文:$\Large恨\textcolor{YellowGreen}{_レ}別 鳥 驚\textcolor{YellowGreen}{_レ}心$

書下:別れを 恨みて 鳥は 心を 驚かす

かな:わかれを うらみて とりは こころを おどろかす

日文:家族と別れた悲しみに、鳥の声を聞いても心が痛む。

解説:五言律詩の第四句です。「別」とは、「別れて離ればなれ」のことです。ここでは、「社会事情により会えない人との別れ」という意味です。「鳥驚心」とは、「人間の悲しみに、鳥も共感してしまう」という意味です。



漢文:$\Large烽 火 連\textcolor{YellowGreen}{_二}三 月\textcolor{YellowGreen}{_一}$

書下:烽火 三月に 連なり

かな:ほうか みつきに つらなる

日文:戦争の火は、三月に(渡って)、連続した。

解説:五言律詩の第五句です。「烽火」とは、「戦争の火」のことです。ここでは「人間の争い」という意味です。



漢文:$\Large家 書 抵\textcolor{YellowGreen}{_二}萬 金\textcolor{YellowGreen}{_一}$

書下:家書 萬金に 抵る

かな:かしょ ばんきんに あたる

日文:家族からの手紙は、たくさんのお金に、相当する(ほど大切だ)。

解説:五言律詩の第六句です。「家書」とは、「家族からの手紙」のことです。「萬」は「万」の旧字体で、たくさんの量を意味します。「萬金」とは、「たくさんのお金」のことです。「抵」とは、「価値が等しいもの」のことです。現代日本語では「抵当」という法律用語に継承されています。



漢文:$\Large白 頭 掻 更 短$

書下:白頭 掻けば 更に 短く

かな:はくとう かけば さらに みじかし

日文:白髪の頭を掻くと、(苦労のために)さらに (髪が)短くなる。

解説:五言律詩の第七句です。「白頭」とは、「髪の色が抜けた白髪」のことです。ここでは「戦乱により疲労困憊した人間の姿」を意味します。



漢文:$\Large渾 欲\textcolor{YellowGreen}{_レ}不\textcolor{YellowGreen}{_レ}勝\textcolor{YellowGreen}{_レ}簪$

書下:渾べて 簪に 勝え ざらんと 欲す

かな:すべて さんに たえ ざらんと ほっす

日文:まとめても (髪の)装飾品で (私の髪が短くて)止めることができないだろう。

解説:五言律詩の第八句です。「渾」とは、「混ぜて一体化する」ことです。現代日本語では「渾然一体(こんぜんいったい)」という四字熟語へ継承されています。「欲」は再読文字で、未来を意味します。ここでは「髪を結ぼうとしても、短すぎて結べないだろう」を意味しています。「勝」とは、「物事を止める」ことです。現代日本語では「景勝地」という熟語へ継承されています。ここでは「髪を止めておくこと」を意味しています。「簪」とは、「かんざし」のことです。ここでは「髪の装飾品」を意味します。




【五言律詩 押韻】


五言律詩では、押韻(おういん)を踏みます。押韻とは、同じ発音が現れることです。

五言律詩では、偶数句末に、音韻を踏みます。五言律詩の音韻は、第二句と第四句と第六句と第八句の終わりになります。

第一句:$\Large国 破 山 河 在$

第二句:$\Large城 春 草 木 \textcolor{orangered}{深}$

第三句:$\Large感 時 花 濺 涙$

第四句:$\Large恨 別 鳥 驚 \textcolor{orangered}{心}$

第五句:$\Large烽 火 連 三 月$

第六句:$\Large家 書 抵 萬 \textcolor{orangered}{金}$

第七句:$\Large白 頭 掻 更 短$

第八句:$\Large渾 欲 不 勝 \textcolor{orangered}{簪}$


春望では、深(shin)心(shin)金(kin)簪(shin)で音韻を踏んでいますね。

漢字の音がわかりにくい時は、音読(おんよみ)してみましょう。音読は、もともと中国語由来の発音なので、音韻が探しやすくなります。




【五言律詩 対句】


五言律詩では、対句(ついく)を構成します。対句とは、比較により強調することです。

五言律詩の対句は、「第三句と第四句」+「第五句+第六句」で、構成すると、詩を美しくする規則があります。



【五言律詩 対句】


第三句:$\Large感 時 \textcolor{orangered}{花} 濺 涙$

第四句:$\Large恨 別 \textcolor{orangered}{鳥} 驚 心$

春望の対句で、第三句と第四句です。第三句では、移動の自由のないを描き、第三句では、移動が自由なを描いています。この対句で、あらゆる生物を暗示しています。



第五句:$\Large烽 火 連 \textcolor{orangered}{三} 月$

第六句:$\Large家 書 抵 \textcolor{orangered}{萬} 金$

春望の対句で、第五句と第六句です。第五句では、数字のを描き、第六句では、数字のを描いています。この対句で、戦争被害が深刻であることを、暗示しています。




対句を、第一句や第七句など、他句に構成する漢詩も存在はしますが、原則からは外れます。


七言律詩 具体例

七言律詩 具体例

七言律詩 具体例


【七言律詩とは】


七言律詩(しちごんりっし)とは、一句当たりの文字数が七文字で、八句で構成する漢詩です。つまり、七文字が八句あるので、全体で五十六文字の漢詩になります。



【七言律詩 具体例】


$\Large日 高 睡 足 猶 慵 起$

$\Large小 閣 重 衾 不 怕 寒$

$\Large遺 愛 寺 鐘 欹 枕 聴$

$\Large香 炉 峰 雪 撥 簾 看$

$\Large匡 廬 便 是 逃 名 地$

$\Large司 馬 仍 為 送 老 官$

$\Large心 泰 身 寧 是 帰 処$

$\Large故 郷 何 独 在 長 安$



この七言律詩は、中国の六朝(りくちょう)時代の白居易(はくきょい)の漢詩です。題名は香炉峰(こうろほう)です。日本の平安時代の作家、清少納言も愛読していた詩です。香炉峰とは、世界遺産の廬山(ろざん)にある山のことです。



漢文:
$\Large日 高 睡 足 猶 慵\textcolor{YellowGreen}{_レ}起$

書下:日 高く 睡り 足りて 猶ほ 起くるに 慵し

かな:ひ たかく ねむり たりて なほ おくるに ものうし

日文:太陽は高く、睡眠は満ち足りていて、なお、目覚めて行動する気がしない。

解説:七言律詩の第一句です。「慵」とは「気が進まない」のことで、行動をする気力がない状態です。「起」は「目覚めて行動する」ことです。



漢文:
$\Large小 閣 重\textcolor{YellowGreen}{_レ}衾 不\textcolor{YellowGreen}{_レ}怕\textcolor{YellowGreen}{_レ}寒$

書下:小閣に 衾を 重ねて 寒さを 怕れ ず

かな:しょうかくに ふすまを かさねて さむさを おそれず

日文:小さな部屋で、布団を重ねて(寝るので)、寒さは心配でない。

解説:七言律詩の第二句です。「小閣」とは、「小さな部屋」のことで、、この漢詩では自分の部屋を、謙虚に述べています。「衾」とは、「布団」のことです。「怕」とは「怖くて心配する」ことです。「不怕寒」とは、寒さで眠れない心配がない状態です。



漢文:
$\Large遺 愛 寺 鐘 欹\textcolor{YellowGreen}{_レ}枕 聴$

書下:遺愛寺の 鐘は 枕を 欹てて 聴き

かな:いあいじの かねは まくらを そばだてて きき

日文:遺愛寺の鐘の音を、枕を(背もたれに)立てて、聞く。

解説:七言律詩の第三句です。「遺愛寺」とは、中国の江西省の廬山にある寺のことです。「欹」は、「立ち上がる」ことです。ここでは、作者が枕を立てて、背もたれのように扱っています。布団から外に出ないまま、悠々自適に鐘を聞いています。



漢文:
$\Large香 炉 峰 雪 撥\textcolor{YellowGreen}{_レ}簾 看$

書下:香炉峰の 雪は 簾を 撥げて 看る

かな:こうろほうの ゆきは すだれを かかげて みる

日文:香炉峰の(積もった)雪は、簾を、持ち上げて、眺める。

解説:七言律詩の第四句です。「香炉峰」とは、中国の江西省の山のことです。「簾」は、「すだれ」ことで、現代日本ではカーテンに相当します。心地よい部屋にいながら、カーテンの隙間から、雪景色を眺めるとは、優雅な暮らしですね。



漢文:
$\Large匡 廬 便 是 逃\textcolor{YellowGreen}{_レ}名 地$

書下:匡廬は 便ち 是れ 名を 逃るる 地

かな:きょうろは すなわち それ なを のがるる ち

日文:廬山は、つまり、それは、名誉から逃れる(ためにはふさわしい)場所だ。

解説:七言律詩の第五句です。「匡廬」とは、廬山の別名です。「名」は、「名誉」のことで、作者は名誉欲とは離れて、静かな満足感を味わっています。



漢文:
$\Large司 馬 仍 為\textcolor{YellowGreen}{_二}送\textcolor{YellowGreen}{_レ}老 官\textcolor{YellowGreen}{_一}$

書下:司馬は 仍ほ 老を 送るる 官 たり

かな:しばは なお おいを おくる かん たり

日文:司馬(という官職)は、やはり、老後を送る(にふさわしい)役職だ。

解説:七言律詩の第六句です。「司馬」とは、古代中国の公務員の役職で、軍隊を司(つかさど)りました。筆者は、あくせくしないで、適量な仕事をする暮らしを、好んでいます。



漢文:
$\Large心 泰 身 寧 是 帰 処$

書下:心 泰く 身 寧きは 是れ 帰する 処

かな:こころ やすく み やすきは これ きする ところ

日文:心が安らかで、体がくつろぐことが、帰るべき場所だ。

解説:七言律詩の第七句です。「泰」とは、「やすらかな」ことです。「泰」とは、「おだやかな」ことです。「心泰身寧」で、「心身とも落ち着くところ」という意味になります。



漢文:
$\Large故 郷 何 独 在\textcolor{YellowGreen}{_二}長 安\textcolor{YellowGreen}{_一}$

書下:故郷 何ぞ 独り 長安に 在る のみ ならんや

かな:こきょう なんぞ ひとり ちょうあんに ある のみ ならんや

日文:故郷は、どうして長安のみに、あるだろうか。(いや、廬山も故郷と呼べるくらい素晴らしい)

解説:七言律詩の第八句です。「何」は、疑問を意味し、「なんぞーーーんや」と反語で訳しました。「独」は、限定を意味し、「ひとりーーーのみ」と訳しました。作者は、素晴らしい廬山を、第二の故郷のように、愛し始めたようです。




【七言律詩 押韻】


七言律詩では、押韻(おういん)を踏みます。押韻とは、同じ発音が現れることです。

七言律詩では、偶数句末に、音韻を踏みます。七言律詩の音韻は、第二句と第四句と第六句と第八句の終わりです。

第一句:
$\Large日 高 睡 足 猶 慵 起$

第二句:
$\Large小 閣 重 衾 不 怕 \textcolor{orangered}{寒}$

第三句:
$\Large遺 愛 寺 鐘 欹 枕 聴$

第四句:
$\Large香 炉 峰 雪 撥 簾 \textcolor{orangered}{看}$

第五句:
$\Large匡 廬 便 是 逃 名 地$

第六句:
$\Large司 馬 仍 為 送 老 \textcolor{orangered}{官}$

第七句:
$\Large心 泰 身 寧 是 帰 処$

第八句:
$\Large故 郷 何 独 在 長 \textcolor{orangered}{安}$


香炉峰の漢詩では、寒(kan)看(kan)官(kan)安(an)で音韻を踏んでいますね。




【七言律詩 対句】


七言律詩では、対句(ついく)を構成します。対句とは、比較により強調することです。

七言律詩の対句は、「第三句と第四句」+「第五句+第六句」で、構成すると、詩を美しくする規則があります。



【七言律詩 対句】


第三句:
$\Large遺 愛 寺 鐘 欹 \textcolor{orangered}{枕} 聴$

第四句:
$\Large香 炉 峰 雪 撥 \textcolor{orangered}{簾} 看$



香炉峰の対句で、第三句と第四句です。第三句では、寝具のを描き、第三句では、外界を分けるを描いています。この対句で、主人公の心地よい生活を、暗示しています。



第五句:
$\Large匡 廬 便 是 \textcolor{orangered}{逃} 名 地$

第六句:
$\Large司 馬 仍 為 \textcolor{orangered}{送} 老 官$

香炉峰の対句で、第五句と第六句です。第五句では、責任かられる姿を描き、第六句では、ゆったりと時間をる姿を描いています。この対句で、主人公が重たい責任から自由であることを、暗示しています。


スポンサーさん