【七言律詩とは】
七言律詩(しちごんりっし)とは、一句当たりの文字数が七文字で、八句で構成する漢詩です。つまり、七文字が八句あるので、全体で五十六文字の漢詩になります。
【七言律詩 具体例】
$\Large日 高 睡 足 猶 慵 起$
$\Large小 閣 重 衾 不 怕 寒$
$\Large遺 愛 寺 鐘 欹 枕 聴$
$\Large香 炉 峰 雪 撥 簾 看$
$\Large匡 廬 便 是 逃 名 地$
$\Large司 馬 仍 為 送 老 官$
$\Large心 泰 身 寧 是 帰 処$
$\Large故 郷 何 独 在 長 安$
この七言律詩は、中国の六朝(りくちょう)時代の白居易(はくきょい)の漢詩です。題名は香炉峰(こうろほう)です。日本の平安時代の作家、清少納言も愛読していた詩です。香炉峰とは、世界遺産の廬山(ろざん)にある山のことです。
漢文:
$\Large日 高 睡 足 猶 慵\textcolor{YellowGreen}{_レ}起$
書下:日 高く 睡り 足りて 猶ほ 起くるに 慵し
かな:ひ たかく ねむり たりて なほ おくるに ものうし
日文:太陽は高く、睡眠は満ち足りていて、なお、目覚めて行動する気がしない。
解説:七言律詩の第一句です。「慵」とは「気が進まない」のことで、行動をする気力がない状態です。「起」は「目覚めて行動する」ことです。
漢文:
$\Large小 閣 重\textcolor{YellowGreen}{_レ}衾 不\textcolor{YellowGreen}{_レ}怕\textcolor{YellowGreen}{_レ}寒$
書下:小閣に 衾を 重ねて 寒さを 怕れ ず
かな:しょうかくに ふすまを かさねて さむさを おそれず
日文:小さな部屋で、布団を重ねて(寝るので)、寒さは心配でない。
解説:七言律詩の第二句です。「小閣」とは、「小さな部屋」のことで、、この漢詩では自分の部屋を、謙虚に述べています。「衾」とは、「布団」のことです。「怕」とは「怖くて心配する」ことです。「不怕寒」とは、寒さで眠れない心配がない状態です。
漢文:
$\Large遺 愛 寺 鐘 欹\textcolor{YellowGreen}{_レ}枕 聴$
書下:遺愛寺の 鐘は 枕を 欹てて 聴き
かな:いあいじの かねは まくらを そばだてて きき
日文:遺愛寺の鐘の音を、枕を(背もたれに)立てて、聞く。
解説:七言律詩の第三句です。「遺愛寺」とは、中国の江西省の廬山にある寺のことです。「欹」は、「立ち上がる」ことです。ここでは、作者が枕を立てて、背もたれのように扱っています。布団から外に出ないまま、悠々自適に鐘を聞いています。
漢文:
$\Large香 炉 峰 雪 撥\textcolor{YellowGreen}{_レ}簾 看$
書下:香炉峰の 雪は 簾を 撥げて 看る
かな:こうろほうの ゆきは すだれを かかげて みる
日文:香炉峰の(積もった)雪は、簾を、持ち上げて、眺める。
解説:七言律詩の第四句です。「香炉峰」とは、中国の江西省の山のことです。「簾」は、「すだれ」ことで、現代日本ではカーテンに相当します。心地よい部屋にいながら、カーテンの隙間から、雪景色を眺めるとは、優雅な暮らしですね。
漢文:
$\Large匡 廬 便 是 逃\textcolor{YellowGreen}{_レ}名 地$
書下:匡廬は 便ち 是れ 名を 逃るる 地
かな:きょうろは すなわち それ なを のがるる ち
日文:廬山は、つまり、それは、名誉から逃れる(ためにはふさわしい)場所だ。
解説:七言律詩の第五句です。「匡廬」とは、廬山の別名です。「名」は、「名誉」のことで、作者は名誉欲とは離れて、静かな満足感を味わっています。
漢文:
$\Large司 馬 仍 為\textcolor{YellowGreen}{_二}送\textcolor{YellowGreen}{_レ}老 官\textcolor{YellowGreen}{_一}$
書下:司馬は 仍ほ 老を 送るる 官 たり
かな:しばは なお おいを おくる かん たり
日文:司馬(という官職)は、やはり、老後を送る(にふさわしい)役職だ。
解説:七言律詩の第六句です。「司馬」とは、古代中国の公務員の役職で、軍隊を司(つかさど)りました。筆者は、あくせくしないで、適量な仕事をする暮らしを、好んでいます。
漢文:
$\Large心 泰 身 寧 是 帰 処$
書下:心 泰く 身 寧きは 是れ 帰する 処
かな:こころ やすく み やすきは これ きする ところ
日文:心が安らかで、体がくつろぐことが、帰るべき場所だ。
解説:七言律詩の第七句です。「泰」とは、「やすらかな」ことです。「泰」とは、「おだやかな」ことです。「心泰身寧」で、「心身とも落ち着くところ」という意味になります。
漢文:
$\Large故 郷 何 独 在\textcolor{YellowGreen}{_二}長 安\textcolor{YellowGreen}{_一}$
書下:故郷 何ぞ 独り 長安に 在る のみ ならんや
かな:こきょう なんぞ ひとり ちょうあんに ある のみ ならんや
日文:故郷は、どうして長安のみに、あるだろうか。(いや、廬山も故郷と呼べるくらい素晴らしい)
解説:七言律詩の第八句です。「何」は、疑問を意味し、「なんぞーーーんや」と反語で訳しました。「独」は、限定を意味し、「ひとりーーーのみ」と訳しました。作者は、素晴らしい廬山を、第二の故郷のように、愛し始めたようです。
【七言律詩 押韻】
七言律詩では、押韻(おういん)を踏みます。押韻とは、同じ発音が現れることです。
七言律詩では、偶数句末に、音韻を踏みます。七言律詩の音韻は、第二句と第四句と第六句と第八句の終わりです。
第一句:
$\Large日 高 睡 足 猶 慵 起$
第二句:
$\Large小 閣 重 衾 不 怕 \textcolor{orangered}{寒}$
第三句:
$\Large遺 愛 寺 鐘 欹 枕 聴$
第四句:
$\Large香 炉 峰 雪 撥 簾 \textcolor{orangered}{看}$
第五句:
$\Large匡 廬 便 是 逃 名 地$
第六句:
$\Large司 馬 仍 為 送 老 \textcolor{orangered}{官}$
第七句:
$\Large心 泰 身 寧 是 帰 処$
第八句:
$\Large故 郷 何 独 在 長 \textcolor{orangered}{安}$
香炉峰の漢詩では、
寒(kan)と
看(kan)と
官(kan)と
安(an)で音韻を踏んでいますね。
【七言律詩 対句】
七言律詩では、対句(ついく)を構成します。対句とは、比較により強調することです。
七言律詩の対句は、「第三句と第四句」+「第五句+第六句」で、構成すると、詩を美しくする規則があります。
【七言律詩 対句】
第三句:
$\Large遺 愛 寺 鐘 欹 \textcolor{orangered}{枕} 聴$
第四句:
$\Large香 炉 峰 雪 撥 \textcolor{orangered}{簾} 看$
香炉峰の対句で、第三句と第四句です。第三句では、寝具の
枕を描き、第三句では、外界を分ける
簾を描いています。この対句で、主人公の心地よい生活を、暗示しています。
第五句:
$\Large匡 廬 便 是 \textcolor{orangered}{逃} 名 地$
第六句:
$\Large司 馬 仍 為 \textcolor{orangered}{送} 老 官$
香炉峰の対句で、第五句と第六句です。第五句では、責任から
逃れる姿を描き、第六句では、ゆったりと時間を
送る姿を描いています。この対句で、主人公が重たい責任から自由であることを、暗示しています。
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