学習院大学 文学部 傾向対策解答解説 2015
学習院大学 文学部 傾向対策解答解説 2015
学習院文学文学部の古文の過去問の解答・解説・全訳です。プロ家庭教師が受験生の学習院文学入学試験対策のために出題傾向を分析・解説します。
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【大学名】 学習院文学
【出典作】 椿説弓張月
【受験年】 2015
【学部(学科)】 文学部
【入試名】 一般
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【大学名】 学習院文学
【出典作】 椿説弓張月
【受験年】 2015
【学部(学科)】 文学部
【入試名】 一般
次の文章は、曲亭馬琴著「椿説弓張月」の一場面です。崇徳上皇の御所において、十三歳の源為朝が、自分よりすぐれた弓の名手はいないと信西に対して豪語したところ、怒った信西は、式成・則員という弓の名手に為朝に向けて弓を射るよう命じたという場面です。これを読んで、後の問題に答えなさい。(配点四十点)
為朝は欣然として信西に対ひ、「式成、則員は無双の弓とりなり。これが矢面に立たん事幸甚し。但しその矢をとり得ずは、わが命忽地に終るべし。われは性命をもて足下に許す。我またよくその矢を取り得たらんには、何をか給はり候ふぞ」といふ。
信西含笑みて、「御身よく矢を取らば、わがこの首なりとも進らすべし。信西は仏門の徒なり。只今御身が射殺さるるとも、死後なほあしくは報ひ候はじ」と欺くを、為朝は耳にもかけず、広庭に走り下り、矢ごろをはかりて立ちたりける。彼の式成、則員は、老功のものなれば、この光景を見て思ふやう、こはあさまし。院の御所にて、故なく兵器を弄ぶさへあるに、人を射殺させて楽しみとし給ふ事、武烈天皇の悪しき御行ひにも勝れり。何とせんと躊躇ふを、信西端ちかく立ち出でて、「とくとく」と催促す。
二人も今はせんすべなく、予て二の矢あるべしと定められたれば、矢二条を手挟みて立ちむかへば、君はさらなり、当座の人々手に[ X ]握り、今の為朝が命は、日影まつ白露よりもなほ消えやすかるべしと思ひ居れりける。
かくて式成弓に矢つがひ、満[ Y ]のごとく引きしほり、矢声をかけて切って発つを、為朝雄手に丁と取る。程もあらせず則員がはなつ矢、胸下ちかく飛び来るを、是をも雄手に受けとめたり。
こは射損ぜしくちをしさよ。縦ひ射殺すまでに至らずとも、やはこの 度は取られじと、両人斉しく引きしぼり、しばし透間を窺ひて、よつ引き際と発つ矢を、一条は袍の袖に縫留めさせ、また一条は取るに間なければ、口もて楚と食留めしか、忽地鹸を噛み砕きつ。
そのときこと、陽炎の登るがごとく、雷電の関くに似 て、人間技ともおぼえねば、これを見るもの酔へるがごとく、嘆賞あまりて声だに[ P ]揚げず。為朝は取りたる矢を、左右へ揺い遣り捨て、「いでその法師首給はらん」といひもあへず、御階の上に跳び上がり、信西に掴みかからんとするを、父の為義押し隔てて、直に撲地と衝き落とし、「武士の家に生まれたる身の、偶ま矢前を避け得たりとも、敢へてめづらしとするに 足らず。しかるにその身の程をも顧みず、部の挙動、こは礼なし。こはすずろなり」といひ懲らし給ふにぞ、
頼長公見そなはして、「やよ為義、いたく[ Q ]叱りそ。信西もまた心にとむべきにあらず。むかしふたりの童ありて、日の出没につきて、その遠近をあらそひしに、孔子もこれを弁じがたかりしとぞ。今通憲入道が、為朝を伏し得ざるもこれにおなじ。今は是までな り。おのおの退出候へ」と、木にもつかず草にもつかず、彼是寛め給ひけり。
(『椿説弓張月」による)
(注)
源為朝=平安末期の武将。為義の八男。保元の乱では、崇徳上皇方につく。
信西=藤原通憲。学者・貴族。後白河天皇の近臣。
武烈天皇=五世紀末の天皇。悪逆な行いがあったと「日本書紀』に記される。
雌手・雄手=右手・左手。
頼長公=左大臣藤原頼長。崇徳上皇と結んで保元の乱を起こすが、敗れる。
[問題]
(1)傍線部 1「矢面」、 2「欺く」、 3「弄ぶ」 の読みを、平がなの現代かなづかいで解答欄に記入しなさい。【解答用紙記述】
(2)空欄X・Yに入るもっとも適切な漢字一字を、解答欄に記入しなさい。【解答用紙記述]
(3)空欄P・Qに入るもっとも適切な平がな一字を、解答欄に記入しなさい。なお、Pは不可能を、Qは禁止を表すために用いられています。【解答用紙記述】
(4)傍線部A「あさまし」、C「せんすべなく」、D「すずろなり」の意味としてもっとも意なものを、次の1~4の中からそれぞれ一つ選んで、解答欄にマークしなさい。【解答マーク】
A あさまし
1 驚きあきれるばかりだ
2 外見がみすぼらしい
3 自分たちに有利だ
4 品性がいやしい
C せんすべなく
1 どうしようもなく
2 気合を入れて
3 腹を立てて
4 同情して
D すずろなり
1 ひたむきだ
2 すばらしい
3 趣がない
4 軽率だ
(5) 傍線部B 「とくとく」を漢字を使って表記するとしたら、どのようになりますか。もっとも適切なものを、次の1~4の中から一つ選んで、解答欄にマークしなさい。【解答マーク】
1 説く説く
2 疾く疾く
3 利く利く
4 解く解く
(6)傍線部ア「ん」、イ「るる」、ウ「じ」の助動詞の意味についてもっとも適切な説明を、次の1~5の中からそれぞれ一つ選んで、解答欄にマークしなさい。
ただし、一つの説明は一箇所にしか使えません。【解答マーク]
1 打消推量
2 完了
3 命令
4 仮定
5 受身
(7)本文の内容と合致しないものを、次の1~4の中から一つ選んで、解答欄にマークしなさい。【解答マーク】
1 式成と則員は、為朝に矢を射るように命ぜられて、最初はためらっていた。
2 為朝は自分に向かって放たれた矢を手や口、衣服ですばやく受けとめた。
3 為義は、息子の為朝のふるまいを目の当たりにして喜びを隠せなかった。
4 信西は為朝がもし矢を取れたら、自分の首をやるとあなどって言った。
(8)曲亭馬琴と同時期の作者を1~5の中から一つ選んで、解答欄にマークしなさい。【解答マーク】
1 近松門左衛門
2 十返舎一九
3 井原西鶴
4 松尾芭蕉
5 鴨長明
(1)
1 やおもて
2 あざむく
3 もてあそぶ
(2)
X 汗
Y 月
(3)
P 2
Q な
(4)
A 1
C 1
D 4
(5) 2
(6)
ア 4
イ 5
ウ 1
(7)3
(8)2
為朝は楽しそうに信西に向かい「式成、則員は無双の弓使いだ。これの矢面に立とうとするのはなんと幸せなことだ。だが、その矢を取れなければ、私の命はすぐに終わるだろう。私は命をかけてそこで試合をしよう。そして、私がその矢を取ることができたら、何を(ご褒美に)いただけるのでしょうか」と言う。
信西はほほえんで「自分で上手に矢が取れたなら、わたしの首でも差し上げましょう。信西は仏教徒だ。死後の世界で悪く仕返ししようとは思いませんよ」と見栄を張るが、為朝は耳にもかけず、広庭に走り下り、矢の距離を計算して立っていた。
向こうにいる式成、則員は、老巧のものなので、この光景を見て思う、これはろくでもないぞ。上皇の御所で、理由もなく武器を弄んでさえいるのに、人を射殺してお楽しみにすることは、武烈天皇の悪事にも勝っている。どうしようと躊躇していると、信西が端近くに出てきて「早く早く」と催促する。
二人はしかたがないので、あらかじめ二の矢があるはずと定めていたので、矢を二筋、手に握って構えると、上皇はもとより、その場の人々は手に汗を握り、今の為朝の命は、陽射しを待つ白い露よりももっと消えやすいだろうと、みな思っていた。
このようにして式成は弓に矢を継ぐと、満月のごとく引きしぼり、掛け声を放って矢を放つと、為朝は右手でうまく取った。わずかの時間もなく則員が放つ矢は、為朝の胸下近くを飛んで来て、これをも左手で受けとめた。射るのは失敗で、なんともくやしいものだ。
たとえ射て殺すまではいかなくても、やはり今度は(矢を) 取られまいと、二人とも (弓を) 引きしぼり、しばらく隙を窺って、よつ引きにひょうと矢を放つと、一条の矢は(為朝)の衣服の袖に刺さり、もう一条の矢は取る時間がないので、口でしかと食い止めて、たちまち矢の先端を噛み砕いた。
そのときのことは、陽炎が登るように、稲妻が閃くように似ていて、人間技とも思えないで、これを見ているものは酔ったように、驚きがあまりにあって、声すら挙げられない。為朝は取った矢を左右へかき捨てて、「さあその法師の首をもらおうか」というなり、御階の上に跳び上がり、信西に掴みかかろうとするのを、父の為義押し隔てて、すぐにはたと突き落として「武士の家に生まれた見で、たまたま弓矢を避けられたとしても、まだまだすごいとは言えない。それなのに、その身の程を省みないで、乱暴な振舞いは、これは無礼だ。これは軽率だ」と言って懲らしめなさった。
頼長公はそばで見ていて、「なあ為義、そんなに叱るなよ。信西もまた気にしなくていいよ。むかし、童が二人いて、日没になって、どっちが遠くまで移動できたか争っていた話で、孔子も判断するのが難しかったそうだ。今、通憲入道が、為朝を降参させられないのも同じことだ。今はここまでにしよう。おのおのは、外へ出なさい」と、木にもつかず草にもつかず(どちらの味方にもつかないで)あれこれとなだめなさった。
為朝稟性射法に達(ためともりんせいしゃほうにたつす)
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