ソクラテスメソッド

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ソクラテスメソッド

ソクラテスメソッド

ソクラテスメソッド (socratic method) とは問答法の一種です。西洋では問答法を古代ギリシア哲学に由来してソクラテスメソッドと呼んでいます。

一方で、東洋では禅仏教の禅問答から由来して、問答法という訳語を当てています。

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ソクラテスメソッド 対話篇

ソクラテス自身は、書物を著していません。ソクラテスの存在が知られているのは、彼の弟子のプラトンが自身の書物のなかでソクラテスを登場させているからです。ソクラテスの言行は、すべて誰かとの対話という形式で描かれているので、プラトンの作品は対話篇とも呼ばれています。

対話において、ソクラテスはある種の触媒として機能します。ソクラテス自体は変化せずに、ソクラテスと対話した人間に変化が起こります。中学校の理科の実験では、過酸化水素水に二酸化マンガンを投入することで、酸素が発生することが知られていますが、ここで二酸マンガンが果たしている触媒としての機能は、ソクラテスが持つ機能とよく似ています。まるで子供の出産を助けるように、ソクラテスは知識の産出を助けるので、その技術は産婆術とも呼ばれています。

ソクラテスと対話した人間は、ソクラテスから何かを得るのではなく、むしろ自身の無知を自覚することによって、新しい知識を獲得することになります。このような状態は「無知の知」と呼ばれます。現代の教育学の用語では、自らをメタ認知する能力とも考えられます。

ソクラテスの対話編において注目すべきは、ソクラテスとソフィストとの対決です。ソフィストはあらゆる物事は言語によって操作可能で、嘘や真理は存在しないと主張します。それに対して、ソクラテスは言語が真理に到達するための手段であるとして、真理の追究をします。物語の結末では、ソクラテスはアテナイ市民によって処刑されることになるのですが、対立によって言葉を尽くすことで、新しい知識に近づこうとする技術は、弁証法(ディアレクティケー)として残されました。

ソクラテスメソッド 弁証法

弁証法は、現在でも議会によって採用されている対話の原型です。そして、弁証法を集団による討論から、個人の教育へと発展させていったものが、現代のソクラテスメソッドです。わかりやすく言いかえれば、ソクラテスメソッドとは、哲学の弁証法のうち、教育効果に重点を置いた技術です。

弁証法という言葉は、その後、プラトンの業績を引き継いだアリストテレスによって弁論術として発展し、さらに近代哲学のヘーゲル・マルクスへと継承されていくにしたがって、意味を拡大していきました。現代英語の dialogue は「対話」と訳されますが、実はかなり歴史のある奥ゆかしい言葉なのでしょう。ちょうど、私たちが日本語の「四季」に豊かさを感じるように、何かがギュッと凝縮されています。

ソクラテスメソッド 特徴

現実の授業では、ソクラテスメソッドが成立すれば、思考力・表現力を育成する効果があります。しかし、そのためにはいくつもの前提条件押さえておく必要があります。そもそも基礎知識の定着や学習意欲がない生徒には、ソクラテスメソッドは成立しません。さらに、相手の回答に対して、自在に質問できるだけの理解が、指導者にも求められます。集団授業よりは、簡単ではないです。小学校・中学校くらいの生徒には、ソクラテスメソッドの欠点が目立ってしまうので、やはり高校生以上に向けた技術なのかもしれません。

ソクラテスメソッドは、誘導尋問のようにあらかじめ決められた解答を矯正するものでもありません。相手を論破するのが目的でもなく、議論によって思考力・表現力を高めることが目的です。その点でいえば、心理学のカウンセリングも、解答を求めるのではなく、患者の自覚を促す点では問答法の一種と考えられます。

解答のない倫理的な問題も多く出題されます。そこでは解答までの論理的な思考能力や、解答を表現する技術が評価の対象となります。古代のギリシア人たちは、人間に秩序を与える能力をロゴスと呼んでいました。ロゴスは言語・理性・論理・定義など多様な訳が当てられていますが、訓練できる能力と考えられていました。

ソクラテスメソッド 例題

以下は18歳を対象とした試験です。フランス国家が主催する哲学バカロレアと民間機関の国際バカレロア (両者は名前が似ていますが別の機関・別のカリキュラムです)のものです。どことなくソクラテスメソッドの影響が見受けられませんでしょうか?

フランス哲学バカロレア 問題例

(仏語)Suffit-il d’observer pour connaître?
(英語)Does observation equals knowledge?
(日訳)観察することと知ることは同じだろうか?

(仏語)Y a-t-il un mauvais usage de la raison?
(英語)Is there such a thing as bad use of reason?
(日訳)理性の悪用がありえるのだろうか?


国際バカロレア 問題例

(英語)Does our language shape our emotions?
(日訳)言語はわれわれの感情に型を与えているのだろうか?

(英語)To what extent is perception more trustworthy than reason?
(日訳)理性と比較して感覚はどこまで信頼に足るものだろうか?

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