アーキテクチャ(architecture)とは、原義では、建築設計のことで、より広い意味では、人間行動を制御するための制度のことです。ローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig)は、1999年に、サイバー空間の分析を通じて、人間行動の制御について、法律・規範・市場・アーキテクチャの4つの制度に注目しました。
【アーキテクチャ 解説】
アーキテクチャを理解するために、「みんなで日本庭園を楽しむ」という場面を想定しましょう。
【アーキテクチャ 解説 法律による制御】
法律(ほうりつ)は、日本庭園の存在を、支えています。日本庭園を楽しむためには、そもそも日本庭園が存在していなければなりません。
日本庭園が存在するために、土地が誰の所有で、どのように用いてよいか、法律で定めておきます。そうしないと、庭園の土地へ、誰かが勝手に、別の建物を建ててしまいます。
日本には、民法という法律があり、土地の所有権を定めています。さらに建築基準法という法律があり、空間をどのように用いるかを、制御しています。
【アーキテクチャ 解説 規範による制御】
規範(きはん)は、日本庭園の存在を、支えています。日本庭園を楽しんでいる時に、誰かが大声で叫んでいたら、雰囲気が台無しになります。
大声で叫ぶ人間を、法律で罰することができない場合でも、周りの人間は、「非難の眼差し」を向けます。その眼差しは、相手に「恥」を要求する眼差しです。大声で叫ぶ人間を、法律で罰することができなくとも、大声で叫ぶ人間へ、私たちは「恥を知れ」と催促し、行動を制御しようとします。
このような「恥」を、より広く、規範と考えます。「人気者になりたい気持ち」や「宗教の戒律」なども、規範による人間行動の制御となります。
【アーキテクチャ 解説 市場による制御】
市場(しじょう)は、日本庭園の存在を、支えています。日本庭園の整備には、お金が掛かりますので、お客さんに、入園料を負担していただきたいです。
入園料を無料にすると、お客さんが利用しやすくなりますが、そもそも日本庭園を整備するお金がなくなり、荒廃していきます。反対に、入園料を高くしすぎると、日本庭園は豪華に整備できますが、そもそもお客さんに利用していただけません。
「日本庭園に入るか入らないか」は、法律においては、個人の自由となります。一方で、市場においては、入園料という価格を通じて、「日本庭園の入りやすさ」を制御しています。
【アーキテクチャ 解説 アーキテクチャによる制御】
アーキテクチャは、日本庭園の存在を、支えています。日本庭園の「道」は、コンクリートで舗装された現代の道路ではありません。「道」は玉砂利(たまじゃり)で満たされ、踏石(ふみいし)は揺らぎながら配置されています。
「道」は、私たちの歩行を「あえて不便」にします。不便さを感じた私たちは、立ち止まり、それから、注意深くなって、日本庭園の美しさへと導かれます。
日本庭園は、あえて揺らぎのアーキテクチャを採用することで、私たちの感性に介入し、行動を制御しています。アーキテクチャによる行動制御は、人間と空間の交流によって、発生します。
【アーキテクチャ 影響】
レッシグの理論は、インターネットの基礎理論として、広く受容されています。20世紀に主流であった規律訓練型権力(きりつくんれんがたけんりょく)から、環境管理型権力(かんきょうかんりがたけんりょく)へと、議論の重心を移しました。
Lawrence Lessig.
CODE2. 2006.
ローレンス・レッシグ. CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー. 山形浩生訳. 2001.
ジョージ・リッツア. マクドナルド化する社会. 正岡寛司訳. 1999.