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寺田寅彦の笑い 択一問題
【長文読解 寺田寅彦の笑い 択一 問題文】
文章を読み、以下の問に答えなさい。
「笑い」の現象を、生理的に見ると、ある神経の刺激によって、腹部の筋肉が、痙攣的に収縮して、肺の空気が、周期的に、断続して呼び出されるということである。呼吸に、それを食い止めようとする作用が交錯して、起こるようである。ところが、ある心理学者の説を敷衍して考えると、そういう作用が起こるので、始めて「笑い」が成立する。( 1 )、「笑う」からおかしいのであって、おかしいから「笑う」のではないという事になる。
私が始めてこの説を見いだした時には、多年熱心に探しまわっていたものが、突然に手に入った気がして、( 2 )。笑う前に、その理由を考えてから笑う事は、不可能であるとしても、笑ってしまったあとで、少なくともその行為の解明がつかないのは、申し訳ないと思っていた。その困難な説明が、どうやらできそうな心持ちがしだした。
「笑い」の実例を見ると、いずれも精神ならびに肉体に一種の緊張を感じるべき場合である。もし充分に気力が強くて、いわゆる腹がしっかりしていて、その緊張状態を一様に保持できる場合には、なんでもない。しかし、からだの病弱、気力の薄弱なために、その緊張の持続に堪えられない時には、知らず知らず緊張が緩もうとする。引き締めようとする努力が、無意識の間に断続する。たとえば、やっと歩き始めた子猫が、足を踏みしめて立とうとする時に、全身がゆらゆら揺れ動くのも、これと似たところがある。そういう断続的の( 3 )緊張弛緩の交代が、生理的に「笑い」の現象と、密接な類似をもっている。
子供の「笑い」の中で典型的なものは、( 4 )第一に、なにかしら意外な、しかしそれほど恐ろしくはない事件が突発して、それに対する軽い驚愕が消え去ろうとする時に、起こる。例えば、人形の首が脱け落ちたり、風船玉のようなものが思いがけなく破裂したり、棚のものが落ちて来たりした時が、その例である。第二に、出来事に対する大きな予期が、小さな実現によって裏切られた時の笑いである。ビックリ箱を開けても、お化けが破損していて出なかったり、花火ができそこなってプスプスに終わったとかいうのが、それである。
このふたつは、世態人情に関する予備知識なしに、可能なものであって、それだけ本能的・原始的なものと考えられる。ともかくも、( 5 )精神ならびに肉体の、一時的あるいは持続的の緊張が、急に弛緩する際に、起こるものといっていい。
(寺田寅彦 1878年生 笑い 改)
【問1 言語知識】
( 1 )に入る最もふさわしい接続詞を、記号で選びなさい。
ア しかし イ なかんづく
ウ すなわち エ かえって
【問2 言語知識】
( 2 )に入る最もふさわしい文を、記号で選びなさい。
ア 曇り空が晴れるようにうれしかった イ 青空が曇るように失望した
ウ 突風に吹かれたように困惑した エ 入道雲のように好奇心が湧いた
【問3 言語知識】
( 3 )の緊張弛緩と同じ構成の四字熟語を、記号で選びなさい。
ア 明鏡止水 イ 自由自在
ウ 輪廻転生 エ 晴耕雨読
【問4 文章読解 部分】
( 4 )の「笑い」の典型的な第一例に、当てはまらないものを、記号で選びなさい。
ア 屋根から音がするが、隣の猫が歩いているだけだと判明した
イ 台所から音がするが、冷蔵庫が稼働しているだけだと判明した
ウ 寝室から音がするが、見知らぬ人間が寝ているだけだと判明した
エ 玄関から音がするが、宅配便を運んでいるだけだと判明した
【問5 条件記述】
( 5 )精神ならびに肉体の、一時的あるいは持続的の緊張が、急に弛緩する際に「笑い」が起こるとあるが、反対に「笑い」が起こらないのは、どのような場合か。本文中の言葉を用いて、以下の空欄に合わせて30文字以内で、記述しなさい。(句読点も文字数に含む)
場合には「笑い」が起こらない。
【問6 文章読解 全体】
本文の内容ともっとも合致するものを、記号で選びなさい。
ア 筆者は「笑い」の本質を理知的に理解したいと望み、好奇心を持ち続けることの重要さを説いている。
イ 筆者は「笑い」の本質を「おかしさ」と区別し、「おかしさ」が「笑い」よりも広い概念だと説いている。
ウ 筆者は「笑い」の本質が緊張弛緩にあると指摘し、この法則を用いれば、「笑い」という現象を理解しやすいと説いている。
エ 筆者は「笑い」の本質が身体運動にあると指摘し、猫の不安定な足取りも「笑い」を引き起こすと説いている。
寺田寅彦の笑い 択一解答
【長文読解 寺田寅彦の笑い 択一 解答】
【問1 言語知識】
ウ すなわち
【問2 言語知識】
ア 曇り空が晴れるようにうれしかった
【問3 言語知識】
エ 晴耕雨読
【問4 文章読解 部分】
ウ 寝室から音がするが、見知らぬ人間が寝ているだけだと判明した
【問5 条件記述】
充分に気力が強くて、その緊張状態を一様に保持できる 場合には「笑い」が起こらない。
【問6 文章読解 全体】
ウ 筆者は「笑い」の本質が緊張弛緩にあると指摘し、この法則を用いれば、「笑い」という現象を理解しやすいと説いている。
寺田寅彦の笑い 択一解説
【長文読解 寺田寅彦の笑い 択一 解説】
【筆者】
寺田寅彦(てらだとらひこ)は、1878年生まれ、日本人の物理学者です。東京帝国大学で物理学を学び、科学雑誌ネイチャー(Natute)に論文を発表しています。本業の物理学の論文に加えて、随筆にも名文を残しています。しばしば夏目漱石の弟子として紹介されます。
主著は「X線と結晶」。 https://www.nature.com/articles/091213b0
彼の著作物は、岩波文庫及び青空文庫で廉価に入手できます。
【出題意図】
専門用語の知識:日常用語に加えて、科学用語を含んだ文章に触れ、話し言葉を超えて、書き言葉への知識を養成する。
論理構成の理解:文章の論理構成を意識して、対比・類似・具体などの関係性を理解する力を育成する。
抽象概念の分析:大学受験のキーワードとなる抽象概念を、正確に読み取り、要素を分析できる力を育成する。
【問1 言語知識】
受験生が接続詞の選択を通して、文と文の関係を整理できるか確認します。
「しかし」は逆説の接続詞です。「しかし」の前後で、論理が反転する場合に用います。
「就中(なかんづく)」は選択の副詞です。接続詞ではありません。集合から1つの事物を選び出す場合に用います。「とりわけ」や「特に」とも似ています。
「すなわち」は要約の接続詞です。「すなわち」の前までの論理を整理する場合に用いられます。
「却って(かえって)」は裏切りの副詞です。接続詞ではありません。「かえって」は「しかし」と似ていますが、筆者の予想が裏切られる点で、より主観的な文脈で用いられます。
ウ すなわち
【問2 言語知識】
受験生が表現技法の選択を通して、文と文の関係を整理できるか確認します。筆者はそれまで抱えていた疑問が晴れて、うれしい気持ちになっています。
ア 曇り空が晴れるようにうれしかった
【問3 言語知識】
受験生が熟語の成立を意識して、知識を得ているか確認します。「緊張」と「弛緩」は対義語の関係にありますので、「晴耕」と「雨読」という対義語により成立する四字熟語を選びます。「明鏡止水」と「自由自在」と「輪廻転生」は、類義語の関係により成立しています。
エ 晴耕雨読
【問4 文章読解 部分】
受験生が文章内容を理解して、具体事例に当てはめて考えられるか確認します。筆者は「笑い」の発生条件として「恐ろしくはない軽い驚愕が消え去る時」と述べています。
この法則に従えば、選択肢ウでは、恐怖が解消しないので、「笑い」は発生しないことになります。
ウ 寝室から音がするが、見知らぬ人間が寝ているだけだと判明した
【問5 条件記述】
受験生が条件に応答し、適切な要素を文章から引用できるかを確認します。
筆者は「笑い」が起こらない場合も述べており、「一種の緊張を感じるべき場合」であっても「緊張状態を一様に保持できる場合」には「なんでもない」と述べています。「いわゆる腹がしっかりしていて」という部分は、「言い換え表現」です。一般に、記述解答では「言い換え表現」は省略できます。
充分に気力が強くて、その緊張状態を一様に保持できる 場合には「笑い」が起こらない。
【問6 文章読解 全体】
受験生が文章内容を理解して、文章全体を俯瞰できるかを確認します。
ア 「好奇心を持ち続けることが重要だ」とは、筆者は主張していません。過剰な表現であり、不正解です。
イ 「笑い」が先にあり「おかしさ」が後に続くと筆者は述べており、「笑い」と「おかしさ」は時間的な前後関係にあります。「より広い概念だ」とは主張していません。過剰な表現であり、不正解です。
ウ 筆者は「笑い」の本質を理解したいと主張しており、それ以上は求めていません。過不足なく表現されており、正解です。
エ 筆者は「猫の不安定な足取り」は「緊張の持続に耐えられない人間の身体運動」と「類似」している述べています。「猫の不安定な足取り」は「笑い」の対象ではなく、「笑い」の身体生理を説明するための比喩表現になります。要素を分析できておらず、不正解です。
寺田寅彦の笑い 完成文
【長文読解 寺田寅彦の笑い 完成文】
文章を読み、以下の問に答えなさい。
「笑い」の現象を、生理的に見ると、ある神経の刺激によって、腹部の筋肉が、痙攣的に収縮して、肺の空気が、周期的に、断続して呼び出されるということである。呼吸に、それを食い止めようとする作用が交錯して、起こるようである。ところが、ある心理学者の説を敷衍して考えると、そういう作用が起こるので、始めて「笑い」が成立する。すなわち、「笑う」からおかしいのであって、おかしいから「笑う」のではないという事になる。
私が始めてこの説を見いだした時には、多年熱心に探しまわっていたものが、突然に手に入った気がして、曇り空が晴れるようにうれしかった。笑う前に、その理由を考えてから笑う事は、不可能であるとしても、笑ってしまったあとで、少なくともその行為の解明がつかないのは、申し訳ないと思っていた。その困難な説明が、どうやらできそうな心持ちがしだした。
「笑い」の実例を見ると、いずれも精神ならびに肉体に一種の緊張を感じるべき場合である。もし充分に気力が強くて、いわゆる腹がしっかりしていて、その緊張状態を一様に保持できる場合には、なんでもない。しかし、からだの病弱、気力の薄弱なために、その緊張の持続に堪えられない時には、知らず知らず緊張が緩もうとする。引き締めようとする努力が、無意識の間に断続する。たとえば、やっと歩き始めた子猫が、足を踏みしめて立とうとする時に、全身がゆらゆら揺れ動くのも、これと似たところがある。そういう断続的の緊張弛緩の交代が、生理的に「笑い」の現象と、密接な類似をもっている。
子供の「笑い」の中で典型的なものは、第一に、なにかしら意外な、しかしそれほど恐ろしくはない事件が突発して、それに対する軽い驚愕が消え去ろうとする時に、起こる。例えば、人形の首が脱け落ちたり、風船玉のようなものが思いがけなく破裂したり、棚のものが落ちて来たりした時が、その例である。第二に、出来事に対する大きな予期が、小さな実現によって裏切られた時の笑いである。ビックリ箱を開けても、お化けが破損していて出なかったり、花火ができそこなってプスプスに終わったとかいうのが、それである。
このふたつは、世態人情に関する予備知識なしに、可能なものであって、それだけ本能的・原始的なものと考えられる。ともかくも、精神ならびに肉体の、一時的あるいは持続的の緊張が、急に弛緩する際に、起こるものといっていい。
(寺田寅彦 1878年生 笑い 改)
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