米国の名門女子大学であるミルズカレッジ (Mills College)が、財政難に耐えかねて、ノースイースタン大学(Northeastern University)に買収された。背景には1:志望者が女子大学よりも共学大学を選好 2:少子化の進行 3:コロナ禍によるビジネスモデルの崩壊がある。いずれのマクロ環境の変化も、長期傾向として定着する見込みだ。
ミルズカレッジとは:What is Mills College?
ミルズカレッジは、米国西部(ロッキー山脈以西)における最古の女子大学で、150年以上の伝統があった。キャンパスは、カリフォルニア州オークランドにあり、リベラルアーツの名門として有名だった。ミルズカレッジの魅力として、地中海風の美しいキャンパスが挙げられ、例えば、結婚式の会場として、ミルズカレッジを借りる女性達もおり、地域社会の憧れの的になっていた。
ミルズカレッジのマクロ経営環境:Macro Environment of Mills College
女性の志望者が、共学大学を志向するようになり、ミルズカレッジは、1990年代から財政難に苦しんだ。女子大学全体の経営環境の長期悪化に加えて、2020年にコロナ禍(Covid-19)が発生し、耐えきれずに、2021年にノースイースタン大学(Northeastern University)に買収された。買収に伴い、女子別学から男女共学へと制度変更し、ノースイースタン大学のサテライトキャンパス(satellite campus)の1つとして存続が決まった。
学長は何を言ったのか:What was the statement of the president?
ミルズカレッジの学長であるエリザベス・ヒルマンさん(Elizabeth L. Hillman, president of Mills College)は、地元の新聞へ、以下の声明を発表し、買収の背景を説明している。要約すると、冒頭に述べた3点となる。
The demographic and economic forces that brought our two institutions together demand that colleges and universities increasingly consider bold partnerships. Ongoing decline in the number of traditional college-age students, increasing costs of a college education, the imperative for equity and access, and the changing needs of the labor force are fueling a mosaic of threats and opportunities. For an increasing number of excellent, but vulnerable, institutions similar to Mills, the alternative to change is closure.
Not to be overlooked is the immediate benefit of the Mills-Northeastern alliance in ending Mills’ financial challenges. The legacy of Cyrus and Susan Mills will live on through Mills College at Northeastern University and a Mills Institute that will advance women’s leadership and gender and racial justice.
日本の参考になるのか?:Is there any implication for Japan?
ミルズカレッジが象徴しているのは、女性の高学歴化と社会進出に伴って、女子大学の地位が不安定になったことだ。もっと言えば、女子校の歴史的な役割が、終焉に近づいていることだ。我が国の現状については、短期大学の整理は、既に始まり、完了しつつある。女子大学も、さらに整理されることが見込まれる。そして、その前触れとして、多過ぎる女子中学や女子高校も、整理が始まるだろう。例えば、東京都立高校が、男女別定員を廃止した場合、もっとも打撃を受けるのは、15歳募集を実施している私立女子高校だろう。
長期トレンドの発生:Occurrence of the long-term trend
マクロ経済の視点では、我が国の20年後の人口数は、既に確定している。18歳人口の減少(2020年116・7万人 → 2040年84万人以下 = 28.02%減少見込)を基調としながらも、1:女性の共学志向 2:地方部から都市部への人口流入 3:リモート授業への全面移行が、次々に折り重なってくる。ミルズカレッジも、銀行などに融資を申し込んだのかもしれないが、10年後に返済すると言われても、融資担当者は迷っただろう。航空業界や観光業界は、まだ原状復帰の可能性が残るが、教育業界に発生したこのトレンドは、もう元に戻ることはなく、ミルズカレッジのビジネスモデルが、今後も有効とは思えなかったのではないか。日本でも経営の苦しい学校法人から、合併が進んでいく。増えすぎた法人資産をどうやって圧縮していくか、いわゆる「撤退戦」が日本列島の各地で起こってくるだろう。